ロッカールームから広がる髪型改革! 「部活ヘアサロン」が変えていく日本のスポーツと校則の常識

飯塚高校サッカー部に「フィーリングコーチ」として関わるバーバー、ヌマタユウトさんが日本のスポーツ界に新しい風を巻き起こしている。髪型の自由と部活の両立を目指す活動が、今全国へと広がりつつある。

カッコよく見えると、気分も上がる

──成績が伴わないと、どうしても「見た目ばかりカッコつけて」となりがちですよね。

「これは学校の校則にも通じるんですが、日本って基本的に、見た目が派手だったりするとマイナスなイメージを持たれがちじゃないですか。“イケてる”よりも“キッチリ”が好まれる風潮があって(笑)」

──では、飯塚高校との取り組みを始めるきっかけは?

「実は、飯塚高校サッカー部の中辻(喜敬)監督とゴールキーパーコーチもうちに髪を切りに来ていて、そこで思いついたんです。『まずは高校生を無料でサポートしてあげよう』って。中辻監督も僕と同じでちょっとバグってる人間なんですよ(笑)。話をしたら、すぐに『じゃあ、やりましょう』ということになって、“フィーリングコーチ”という肩書きでサッカー部に所属させてもらいながら、毎月生徒たちの髪を切るようになったんです」

──フィーリングコーチとは珍しい肩書きですね。

「日本初、いや世界初でしょう(笑)。カットで選手のフィーリングを上げて、練習から試合、さらに私生活までもサポートするというのが、その役目です。LOOK GOOD FEEL GOOD PLAY GOOD──。つまり、見た目がよくなると気分が上がる、気分が上がるといいプレーができる。そうしてフィーリングが上がれば生活リズムも変わるし、人に対していい接し方もできるようになるんです。

もちろんフィーリングコーチというキャッチ―な肩書きを付けたのは、多くの人に興味を持ってもらい、こうして取材に来ていただくことで、広く世間に知ってもらおうという戦略的な狙いもあります。知られないことは今の情報化社会ではクールじゃないし、まずは知られないと何も始まりませんからね」

──飯塚高校で活動するにあたって、反対の声はありませんでしたか?

「中には『こんなことをやって意味があるのか?』といった意見もありましたけど、僕が中辻監督に言ったのは、『僕はいいカットをするから、監督はとにかく結果を出してください』と、それだけでした。結果さえ出れば、みんな黙りますから。

そうしたら、スタートして2年目の高校サッカー選手権大会(2022年大会)に初出場して、全国の舞台でベスト16入り。さらにその翌年も2年連続で選手権に出場(2023年大会/初戦の2回戦で優勝した青森山田にPK戦で惜敗)したんです。ちょうどチームが強くなっているタイミングとうまく合致した感じでしたね」

──選手たちの反応はどうでしたか?

「最初から純粋に喜んでいましたよ。試合前のロッカールームで髪を切るのは、飯塚高校ではもう当たり前の光景になりました。県予選の準決勝くらいからやり始めるんですが、中辻監督がキープレーヤーになりそうな子を2人くらい選んで、その子たちの髪をロッカールームで切って試合に送り出すんです。そうすると本人もうれしいし、いつもよりテンションが上がって“もう一歩”が踏み出せる。

実際にそうして送り出した選手がゴールを決めたこともありますし、それを見た下級生たちも『自分もああなりたい』って思うようになるんです」
飯塚高校
飯塚高校サッカー部の生徒からは「トップ選手のヘアカットをしているヌマタさんに切ってもらえて、気持ちが上がった」という声も

個人的な活動が社会的な活動へ

──最初はヌマタさん個人で始められた活動でしたが、その後『メリケンバーバーショップ』が全面的にサポートするようになり、2年ほど前からマンダム賛同のもと、「部活ヘアサロン」という形で、活動は地域と競技の枠を超えて、全国へと広がりつつあります。世の中に浸透してきたという実感はありますか?

「まだまだ道半ばですよ。僕の中では何十年という長い時間をかけた壮大なプロジェクトですから。カッコつけるって大事だし、『ナルシスト』という言葉もSNSに自撮り画像を当たり前のようにアップする時代になった今では、昔みたいに悪い意味ではなくなってきている。でも、保守的な日本のスポーツの世界でそうした意識を浸透させるのって、めちゃくちゃ難しいんですよね。

ただ、これまで飯塚高校でカットしてきた3期分の生徒たちは、きっとLOOK GOOD FEEL GOOD PLAY GOODの意味を分かってくれたはずだし、彼らが社会に出て、少しずつ世の中の意識を変えていってくれると思うんです。それは、2023年度の選手権に出場したチームのキャプテンで、今はカマタマーレ讃岐でプレーする藤井葉大選手のようにプロになった子だけでなく、全く違う職業に就いた子も同じです」

──今や「部活ヘアサロン」は、東山高校のバスケットボール部や駿台学園高校のバレーボール部などでも実施されていますね。

「切る人間の思いは、切られる側に伝わります。だからこの活動も、『この生徒のフィーリングを上げて、プレーをよくしてあげたい』と強く思える人間が切らないと意味がない。それは大前提ですが、この『部活ヘアサロン』を体験した高校生がどんどん増えていけば、彼らが大人になったとき、たぶん髪型に対する考え方も変わって、それは校則の問題にもつながっていく。『校則なんて必要ないよね』って、そんな時代が来ると思うんです」

──いわゆる“ブラック校則”が話題になることも多いですよね。髪型に縛りがあるせいで、部活を辞める生徒も少なくありません。

「正直に言うと、僕は“ブラック校則どうでもいい派”なんです(笑)。校則があるなら、その中でいいカットをすればいいだけの話なので。校則で強制的にやらされる坊主はダサいけど、スタイルとして自分がやりたいと思ってやる坊主はカッコいいんです。

とはいえ、校則が厳しい高校とそうじゃない高校、どちらを選ぶかとなったら、やっぱり後者なんです。そこは部活のリクルートにも関わっていて、実際に飯塚高校サッカー部の新入部員は年々増えていますからね」
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