カットを通じて、新たな価値観やカルチャーを根付かせたい
「バーバーがプロチームと契約を結んで、カットを通じてアスリートたちをサポートしていきたい。やっぱり、夢を与える人たちはカッコよくあってほしいし、彼らにはその影響力を自覚して、いい発信をしてほしいんです。
例えば海外には、専属の理美容師が試合に帯同しているチームがありますが、彼らはファッションがビジネスになるってことが分かっているんです。その昔に“ベッカムヘア”が流行りましたけど、そうしたブームが起きればバーバーも潤うし、ヘアカットの価値自体も上がっていきますからね」
──相乗効果が生まれるわけですね。具体的に目指すのは、一度は諦めたJリーグのクラブとの契約ですか?
「今はトルコ(ギョズテペ)でプレーしている松木玖生選手の髪は、トルコに移籍するまで僕がカットしていたんです。
もともと松木選手は、選手権の100回記念大会(2021年度大会)でキャプテンとして青森山田を優勝に導いた当時から、フェードカットの七三分けにしていました。プロ意識というか、そういうところが大事だっていうことが分かっている、唯一の高校生だなとテレビを見て感じていて。僕が考えていることを松木選手なら理解してくれるんじゃないかと思っていたら、FC東京の小泉慶選手の紹介で髪を切りに来てくれるようになったんです。
やっぱり強いチームには、見られているという意識を持った選手が多いんです。子どもたちの目標になるような存在でいるにはカッコよくなければいけないし、言葉遣いや礼儀もきちんとしていなければいけない。そんな“見られる意識”と“与える意識”を持った代表格みたいな高校生が、松木選手でした。
そうしたつながりもあって、今は彼の前所属先であるFC東京とどうにか契約できないかと動いている段階です。毎月カットを担当させていただいている小泉選手とも、よくそんな話をしています。この活動を目にしたり、この記事を見てくれたチームが声をかけてくれたら最高なんですけどね。
この先、きっと松木選手は日本代表に入るでしょうから、そのときまでにムードをつくっておき、日本代表チームのバーバーとして帯同できたら……それが今の目標です」
──「部活ヘアサロン」もその一環ですが、カットを通じて人々の意識が変化し、新たな価値観やカルチャーが日本に根付いていくといいですね。
「カッコよく髪を切ってもらったら、みんな笑顔になる。カットにはそういうパワーがあるんです。髪を切って誰かのフィーリングがよくなれば、それが周りにもいろんな形で伝播(でんぱ)して、究極の話、戦争だってなくなると思うんです。まあ、そんな壮大な夢が現実になるかどうか、結果が出るのはたぶん、僕が死んだ後だと思いますけどね(笑)」
ヌマタユウトさんプロフィール
MERICAN BARBERSHOP(R)クリエイティブディレクター。飯塚高等学校 サッカー部フィーリングコーチ。
この記事の執筆者:吉田 治良 プロフィール
1967年生まれ。法政大学を卒業後、ファッション誌の編集者を経て、『サッカーダイジェスト』編集部へ。2000年から約10年にわたって『ワールドサッカーダイジェスト』の編集長を務める。2017年に独立。現在はフリーのライター/編集者。



