ヒナタカの雑食系映画論 第160回

【ネタバレ解説】『片思い世界』が賛否両論になった8つの理由。特殊な設定なのに“説得力”がないワケ

『花束みたいな恋をした』の脚本・坂元裕二と監督・土井裕泰のコンビの最新作『片思い世界』が賛否両論を呼んでいます。その理由を前半はネタバレなし、後半はネタバレ全開で解説しましょう。(※画像は筆者撮影)

※以下、『片思い世界』の結末を含むネタバレに触れています。

4:幽霊の設定に説得力が欠けている

本作の「秘密」は、主人公3人が幽霊だったということ。それまで彼女たちがほかの誰とも相互的にコミュニケーションを取れていないような、「自分たちの世界」だけにいるような違和感の正体が、コンサートのシーンで「誰にも見えていないし誰にも声が聞こえていない」ことで明らかになるサプライズになっていたのです。
 

ただ、個人的にはこの幽霊にまつわる作品内のルールがあいまいで、とても飲み込みづらいものに見えてしまいました。「人からぶつかられる」のに「自分からは物理的な干渉ができない」ように見えるのも矛盾しているように思えましたし、12年間も「一緒にご飯を食べている」という彼女たちにとって、「スーパーに行っていたりするけど、それでいて食材はこの世界で自然に湧き出ているものなの?」などと疑問も生まれてしまいます。

劇中では大学の授業を踏まえて「ニュートリノ」「多元宇宙」といったSF的な解釈をさせる要素もありますが、これらが「後付け」の「説明」にすぎず、かえって設定のアラをより目立たせ、逆効果になってしまっているとさえ思えました。

5:「現実の世界にコミットできない」設定である

それよりも問題だと思えたのが、この幽霊の設定が、エンターテインメントにあまり昇華されていないことです。結末も含め「幽霊の3人が結局は現実の世界に何もコミットできない」のは意図したことではあるのでしょうが、結果的に映画としての面白さも大きく損ねていると思えました。

比較対象として分かりやすいのは、1990年の映画『ゴースト/ニューヨークの幻』です。こちらは、暴漢に殺され幽霊となった男性が、恋人を助けるためにあらゆる手を尽くし、唯一コミュニケーションが取れる霊媒師がイヤイヤながらも彼に協力する様が面白い作品でした。
 

対して『片思い世界』では、例えば序盤で車に取り残された赤ちゃんを助けようと、3人は必死で道ゆく人に「助けてください!」と叫ぶばかりで、結局はたまたま通りがかった男性たちが赤ちゃんを見つける、という展開に見えます。

彼女たちは12年間も幽霊として暮らしているのだから、それが徒労に終わることは彼女たちも分かりきっているのではないかとも思えますし、個人的にはこの時点で幽霊という設定の面白さに期待できなくなってしまった、はっきり言えばその後はずっと退屈に感じてしまったのです。

また、現在公開中の同じく坂元裕二の脚本作品である『ファーストキス 1ST KISS』では、まさに「次のループでは夫を救うためにこうする」という、「ループもの」の定番とも言える試行錯誤こそがエンタメになっていました。

【関連記事】映画『ファーストキス』が大傑作である3つの理由。松村北斗へのキュンキュンの加速が青天井だった
 

対して『片思い世界』では『ゴースト/ニューヨークの幻』などにある「幽霊もの」の面白さがあまり詰められていない、意図的にせよそこを捨てているようにさえ思えたことが、あまりにもったいなく思えました。
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あまりに不誠実に思えた「犯人」の顛末
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