
ここでも申し上げておきましょう。『ファーストキス』は間違いなく日本映画の、ラブストーリー映画という枠組みでも、歴史の転換点というべき大傑作であると! 何よりエンターテインメントとしてものすごく面白く、性的な話題もほぼ皆無なので見る人を選ばない、万人におすすめできる映画としても理想的です。
予備知識をまったく必要としない分かりやすさ、それでいて人それぞれの考察がはかどる奥深さ、「こういう感じなんだろうな」という安易な予想を裏切る展開も見どころなので、「とにかく! いいから! 見に行って!」で終わりにしたいほどなのですが、そういうわけにもいかないので、魅力を大きく3つに分けて紹介しましょう。総じて「この座組(組み合わせ)と全ての要素が有機的につながっているからこその大傑作となった」と断言できます。
1:「タイムトラベル&ループもの」のツボを押さえていて超面白い
大筋の物語はシンプルかつ「初め」の目的は明確です。「事故で夫を亡くした女性が、その夫と出会った15年前の夏にやってきて、夫が死ぬ運命を変えようと奮闘する」というもの。行ける過去は「同じ1日」のみで、そこでやったことが現在(未来)へ微妙に、あるいは決定的に影響を与えることが分かり、主人公は何度も何度もまた同じ夏の日へと向かいます。ジャンルははっきりと「タイムトラベル&ループもの」かつ、そのツボをしっかり押さえているため、めちゃくちゃ面白いのです。例えば「同じように思えていた時間の中で変化が生まれる」というある種の間違い探しのようでもありますし、「リセットを繰り返して同じ時間で学んだことを次に生かしていく」様はまるでテレビゲーム。初めは戸惑っていた主人公が「次の1日はこうしよう」「いや今度はこうするのはどうか」と試行錯誤していく過程を楽しめるでしょう。
そうした要素やラブストーリーであることから、特に1993年公開のループものの名作『恋はデジャ・ブ』を強く連想させるのですが、そちらの主人公が強制的に同じ1日に閉じ込められてしまうのに対し、この『ファーストキス』の主人公は自らの意志で能動的にループを繰り返していることも面白いところ。このエンターテインメントとしての「土台」がしっかりしていることが、後述するさまざまな要素と密接に絡み合い、作品の魅力が何重にも絡み合って増幅していくのです。