おまけ:「3年待ちの餃子」が示しているものは
最後に、本作で特に印象に残り、かつ坂元裕二の脚本らしさがしっかりあるポイントについて考察してみましょう。それは「3年も届けられるのを待っていた餃子」で、序盤に主人公は「待っていたことも忘れていた」と自虐的に笑い、その後、調理で大失敗してしまうのです。それもまた「過去には確かにあった好きな気持ちが時間と共に変質してしまい、その後もうまくいかなくなってしまう」という、『花束みたいな恋をした』でも描かれた普遍的な出来事のメタファーでしょう。その餃子が「代引き」という「先延ばしにして後から清算する手法」で買っていたことも皮肉に思えますし、それは冷え切った夫婦関係の15年間で積み重なっていた、2人の価値観を端的に示しているともいえます。
そして、詳細はここでは書かないでおきますが、この皮肉かつメタファーが、やはり涙腺決壊かつ、過去から未来への希望、「その後」も想像したくなる感動につながっていくのはあまりに見事……! この映画を見た後は、ささいなことをもっと大切にしようと思えるし、過去には戻れない人生を誠実に生きようという決意も新たにできるかもしれません。素晴らしい映画を、本当にありがとうございました!
この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。



