ヒナタカの雑食系映画論 第158回

『ナタ 魔童の⼤暴れ』はなぜ最も売れたアニメ映画になったのか。見る前に知ってほしい3つのこと

アニメ映画世界歴代興行収入1位を樹立した中国のアニメ映画『ナタ 魔童の⼤暴れ』は、その評価もアニメ映画史上最高クラス。ここまでのメガヒットとなった理由と、事前に知ってほしい3つのことをまとめてみましょう。(画像出典:プロデュース&製作:可可⾖動画 彩条屋影業)

1:上映時間は2時間24分!スクリーンで目いっぱいに堪能しよう

まず、本作の上映時間は2時間24分と長めであることにご注意を。直前のトイレは必須、その後の予定との調整も必要でしょう。また、現時点では吹き替え版の上映はなく、字幕版のみ。お子さんを連れていく場合は、漢字がある程度は読める年齢の方がベターでしょう。
ナタ
プロデュース&製作:可可⾖動画 彩条屋影業
とはいえ、長さばかりを気にし過ぎてしまうというのももったいない話。いや、むしろその上映時間で目いっぱい、世界最高峰の3DCGアニメを堪能し、酔いしれてほしいのです。アクションでの大胆なカメラワーク、見た後の心地よい疲労感も含め、個人的には2023年公開の『スパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバース』(上映時間2時間20分)も連想しました。

それでいて、「えっ?もう終わり?」と思うほどにのめり込んで見られること、またそれだけの上映時間にも必然性がある物語の厚みも含め、『ウィキッド ふたりの魔女』に通じていました。画面いっぱいにたくさんのキャラクターが目まぐるしく動く場面もあり、なるべく大きなスクリーンで見ること、特にIMAX上映を選ぶことも強くおすすめします。

2:抑えておくべきは「主人公と親友」&「相関図」

今作は前作を見ていない観客も想定した作りにもなっており、前作のあらすじや基本的な設定は冒頭でざっくりと説明されるのでご安心を……と、言いたいところですが、矢継ぎ早にたくさんの情報が叩き込まれるので、混乱してしまう人も多いのではないでしょうか。
ナタ
プロデュース&製作:可可⾖動画 彩条屋影業
例えば、「天界の秘宝『混元珠(コンゲンジュ)』が、英雄となる運命を持つ『霊珠』と、魔王となる宿命を背負う『魔丸』に分けられた」「本来ナタに渡るはずの霊珠は、企てにより『ゴウヘイ』に、そしてナタには魔丸がもたらされてしまった」といった設定です。

日本語字幕でもできるだけ情報を詰め込んでいる印象があり、身構えずに見ると固有名詞の多さに面食らってしまうかもしれないので、初めからスクリーンに「全集中」して見た方がいいでしょう。

しかしながら、主人公であるナタの来歴の大枠は「これまで孤独を抱えてきたが、両親からの愛情を受けて育った」とシンプルで、ゴウヘイとの関係は「親友」です。また、ナタはヤンチャな少年で、ゴウヘイは冷静沈着で思慮深いという、正反対の性格の持ち主。そして、互いにもともとは「違う宿命」を背負った主人公と親友の関係、境遇を主軸に物語を追っていけば、すんなりと飲み込めるでしょう。

さらに、ナタとゴウヘイにそれぞれに師匠がいることも把握していたほうがいいでしょう。それは、ひょうひょうとした性格の「太乙真人(タイイツシンジン)」と、頑固で攻撃的な「申公豹(シンコウヒョウ)」です。

そのほかのキャラクターもかなり多めで、関係性もやや複雑なので、事前に公式X(旧Twitter)でも掲載されているキャラクター相関図を頭に入れておき、公式Webサイト掲載のキャラクター紹介ページも軽く読んでおくことをおすすめします。

3:少年漫画的なアツさと「今」の世界の問題への鋭さも

今作のあらすじは、前作で親友同士になったナタとゴウヘイが、新たな問題に直面し、共に冒険に旅立ち、そして世界の真実を知る……というもの。正反対のコンビによる冒険とアクションは、日本の漫画『うしおととら』をほうふつとさせますし、「修行」パートも含めて日本の少年漫画のようなアツさやエンタメ性に満ちており、日本人にも分かりやすく楽しめるでしょう。
ナタ
プロデュース&製作:可可⾖動画 彩条屋影業
激しい肉弾戦や、空間を大きく吹っ飛ぶアクション、はたまた「龍」のキャラクターからは『ドラゴンボール』を思い出す人も多いでしょう。主人公のナタが繰り広げる序盤のドタバタ劇は初期の『ドラゴンボール』っぽさもありますし、ネタバレになるので詳細は伏せますが、後半にはまさに『ドラゴンボール』世代に刺さる、カタルシスのある展開が用意されているのです。

また、こちらも詳細は伏せておきますが、劇中で提示される悲劇と、終盤のとある「種明かし」も含めて、提示された問題はロシアによるウクライナへの侵攻、イスラエルによるガザ地区侵攻に強く通じているものでした。
ナタ
プロデュース&製作:可可⾖動画 彩条屋影業
世界中で差別や迫害、さらには虐殺が巻き起こるこの世の中で、何を信じて、どのように行動するべきなのか。主人公のナタのとてつもない怒りや悲しみは切実なものですし、その中でも正しい道を選択しようとする、予告編にもある「俺の道は俺が決める」という宣言も含めて、勇気や希望をもらえる人は多いでしょう。
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前作を見る手段がないのは残念だけど、予習復習できる作品も
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