K-POP「冬の時代」になぜ? 奇跡のメンバー構成、新しい声…「EXO」が韓国音楽界のトップに立てた理由

2012年にSMエンターテインメントからデビューしたK-POPグループ「EXO」。なぜ彼らは韓国音楽界の頂点に上り詰め、今も残る個性的な名曲をリリースし続けてこられたのか。その理由、時代背景などについてゆるっと本音で語ります。※サムネイル写真:Mydaily/アフロ

SMエンタの“黄金期”だったからこそ集められた!? 奇跡のメンバーたち

ゆりこ:はい。持論になるのですが「奇跡のメンバーがそろった」というのも2010年代という時代のおかげではないかと考えています。

矢野:当時のK-POPはどのような感じだったのですか?

ゆりこ:まさに“SMの天下”でしたね。もちろんYGエンターテインメント、JYPエンターテインメントも人気アーティストを抱え、力を持っていましたが、東方神起、少女時代、SUPER JUNIOR、SHINeeにf(x)……アーティスト層の厚さではSMは群を抜いていたのではないでしょうか。それに現在の最大手HYBEだって存在しなかった時代です(前身の会社は存在)。SMに才能ある練習生が集中していた時代だと考えられます。

※各社それぞれのカラーがあり、相性の問題によりSM以外の他社に行った優秀な練習生もいるというのは大前提です

矢野:SMの練習生になれるだけですごいということですか? 今もオーディション番組などで「元SM練習生」が一種のブランディングになっていたりしますが。

ゆりこ:当時、栄華を誇るSMに集められた才ある練習生の中で、さらに厳選されたメンバーで構成されたのがEXOなのです。時代が違えば、EXOメンバーの一部がHYBEや他レーベルからバラバラでデビューしていた未来だってあり得たかもしれません。
矢野:まさに真の選ばれしアイドルたちということですね。もちろん、EXOの後にも魅力的なアーティストが多数輩出されているのもすごい。

ゆりこ:加えてEXOがデビューした時期は海外市場を含めて考えると、K-POPの「冬の時代」だったと思います。東方神起やBIGBANG、少女時代や2NE1というレジェンド級の先輩グループたちが諸事情で活動を休止するなど、勢いが一時的に落ち着き始めた、いわば第2世代の区切りのタイミング。第2世代は矢野さんもご存じの通り、日本でも第1次K-POPブームを起こしました。日本のテレビ番組でKARAが踊っていたのを覚えていますよね。でもその後、ふっとK-POPの露出が少なくなった。

矢野:KARAの『ミスター』が発売された当時の僕は中学生くらいでしたが、クラスを超えて学校中でみんなが口ずさんでいたのを覚えています。ガラケーの着信音にしている人もたくさんいました。ただ、確かにその後はたとK-POPの露出が少なくなりましたね。日本のテレビ局の前で同局の韓流偏向放送に対する抗議デモが起きたことも話題になりました。

ゆりこ:そう、あれが2011年。EXOがデビューする前年の出来事なんです。K-POPに限らず、日本市場の韓国エンタメ熱がスーッと冷めていくのを目の当たりにしました。それでも根強いファンは残っていたので、今があるのですが。

矢野:そういえばその後、中国で韓国エンタメを排除しようとする動き「限韓令(※)」も発令されましたよね。

※2016年に韓国と米国の在韓米軍THAAD(終末高高度防衛ミサイル)配備に対して中国政府が「報復措置」の一環として行ったといわれている韓国関連の取引を制限するもの(中国政府は認めていない)

ゆりこ:そう、中国での活動にも赤信号が灯り始めました。EXOのデビューから4年目の出来事でした。前々回で中華メンバー3名が脱退した話をしましたが、もし「EXO-M(中華圏をターゲットにしたユニット)」が残っていても茨の道だったでしょう。

矢野:日本と中国、K-POPを支える2つの大きな市場が与える影響は決して小さくはなかったということですよね。

ゆりこ:結構な打撃だったと思います。K-POPの「冬の時代」の到来は、裏を返すと王者不在のタイミング。EXOにとって韓国音楽界のトップの座に着くには追い風でした。一方でグローバルに活動するには厳しい向かい風が吹いていた時期だとも言えます。

矢野:追い風と逆風が同時に吹く状況……。なかなかしんどそうです。もちろん韓国で頂点に上り詰めただけでもすごいことだと思うのですが、より高みを目指すならシェアを大きくしていかなければいけないのは事実。前に進みたいけれど進めない、その要因が自分たちのコントロールしにくい、干渉しにくいものであればあるほど、つらさは増していきそうです。

ゆりこ:「冬の時代」とは言いましたが、個人的にはEXOの圧倒的なきらびやかさと存在感、そこに負けじと差別化すべく個性あふれるグループがしのぎを削る面白い時期だったとも思います。あの頃をもう一度味わいたいぐらい(笑)。EXOをはじめとする第3世代と呼ばれるグループが、第2世代が作った土台をより盤石なものに固めつつ、暗中模索しながらK-POPの既存システムや曲調を壊して広げていったからこそ、K-POPは今の世界人気と日本での再ブームが起こったのだと思います。

矢野:「雨降って地固まる」、第3世代のグループたちが乗り越えてきた数々の困難がその後のK-POP界にもたらした影響は大きいのですね。もうEXOトークはここでいったん終わり……にしようと思ったのですが、また質問が浮かんでしまいました!

ゆりこ:この連載が始まって以来、4回連続の大特集。歓迎です。
矢野:では続けましょう! 次回は彼らがK-POPへ与えた影響について具体的にお聞きしたいです。EXOが始めたもの、逆に終わらせたものなどもあれば知りたいですね。そして今後のカムバックの可能性、未来についてもお話ししましょう。最近シウミンさんのカムバックについて、古巣SMと一悶着あったようですね。音楽番組への出演を妨害されたとか何とか……。

ゆりこ:EXOファンとしては非常に心配になるニュースでした。メンバーそろっての活動はどうなるのか……ヤキモキしている人も多いはず。今回はひたすら「EXOメンバーを愛でる回」でしたが、次回はそういった彼らの現状にも触れていきたいと思います。

【ゆるっとトークをお届けしたのは……】
K-POPゆりこ:音楽・エンタメライター。雑誌編集者を経た後、渡韓し1年半のソウル生活を送る。帰国後は、K-POPや韓国カルチャーについて書いたりしゃべったりする「韓国エンタメウオッチャー」として、雑誌やWebメディアなどでの執筆活動や、韓国エンタメ情報ラジオ番組『ぴあ presents K-Monday Spotlight』(TOKYO FM)でパーソナリティーを務めるなど幅広く活躍中。

編集担当・矢野:All Aboutでエンタメやビジネス記事を担当するZ世代の若手編集者。物心ついた頃からK-POPリスナーなONCE(TWICEファン)&MOA(TOMORROW X TOGETHERファン)。
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