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波乱の2024年、2025年はさらに激動の年に!?

K-POPゆりこ(以下、ゆりこ):韓国にとって2024年は波乱の年だったと思います。12月3日夜に尹錫悦大統領が突然「戒厳令」を発令。反発する国会議員たちの迅速な行動により一夜にして戒厳令は解除となったのですが、年が明けてからもしばらくはこう着状態が続きました。そして1月15日に内乱を首謀した疑いで逮捕。韓国で現職の大統領が逮捕されるのは初めてのことです。
矢野:僕と同世代の若者がデモに参加している映像を見ました。それもK-POPグループのペンライトを持って。エンタメと政治が地続きであると実感しました。
ゆりこ:初めは戒厳令によって番組収録やイベントが中止となってしまったアーティストのファンたちが、ペンライトを持って抗議したことから始まり、その後さまざまな人たちへ広がっていきました。
矢野:少女時代のデビュー曲『Into The New World』がデモのテーマソングになったことも印象的でした。その歌詞に新しい世界、変化を望む思いを込めたんですよね。 ゆりこ:実は「タマンセ(※『Into The New World』の韓国語略称)」がデモや抗議活動に使われたのは今回が初めてではありません。しかし改めて聞くと攻めている曲ですよね。18年前のガールズグループのデビュー曲としてはかなり革新的でした。発売当時の日本を思い返すと「モテ」「愛され」ブームでしたから。自立と変革を歌う曲は韓国という土壌だったからこそ生まれ、支持されてきたのかもしれません。
※韓国語タイトル「タシ マンナン セゲ(また出会った世界)」、略して「タマンセ」と呼ばれる
矢野:「未来を変えていくのは自分たちだ」という強い意思を感じます。そして12月29日に起こってしまった悲惨な航空機事故。2025年1月4日までは韓国全体が「服喪期間」として年末年始の特番やイベントが休止、延期となってしまいました。
年末年始の音楽番組・イベント、新人デビューにも影響を与えた悲惨な事故
ゆりこ:航空関連では韓国史上最悪の事故です。大惨事がゆえに、年末の風物詩、地上波各局がドラマ関連のスタッフや役者を表彰する『演技大賞』、バラエティー関係者やタレント、芸人にスポットライトを当てる『芸能大賞』、そしてK-POP特番『歌謡大祭典』も事前収録して放送延期に。年明けに日本で実施された「第39回 Golden Disc Awards」のレッドカーペットも中止され、生中継から録画放送に切り替わりました。韓国側はもちろん、日本側で放送や配信を予定していた企業も対応に追われたことでしょう。矢野:いろいろなアーティストのSNSアカウントに追悼文と、当分コンテンツ公開を自粛するというお知らせが投稿されていました。SEVENTEENのユニット・ブソクスン(BSS)やIVEなどカムバックを延期したケースもありましたね。
ゆりこ:JYPエンターテインメント(以下、JYP)から元日にデビュー予定だったボーイズグループKickFlipも正式デビューは1月20日になりました。1月6日に先行公開された『Umm Great』は英語タイトルも韓国語タイトルも「ウン クレ」と近い発音でひねりが効いている上に、キャッチーな良曲でした。デビュー日がずれたからといって彼らの前途には悪影響ナシと見ていますが、それでも直前の変更には戸惑ったことでしょう。
矢野:大変な最中にも日本の『第75回NHK紅白歌合戦』や『第66回 輝く!日本レコード大賞』に出演してくれたグループも複数いました。皆さん胸元に黒い喪章を付けてパフォーマンスしていた姿が印象に残っています。
ゆりこ:それぞれいろいろな思いを抱えながら出てくれているのだろうなと思いながらテレビを見ていました。
矢野:あらゆる変更や中止は事故の犠牲者やそのご遺族、関係者の心情を考えると当然のことなのですが、やはりエンタメ業界は平和と安全がベースにあってこそ成り立つものだということを再認識しました。