1:前作からかなり複雑化した人物関係こそが魅力的
前作から引き継がれていた面白さは「全てを失った男が剣闘士になる」ことにあります。どちらも家族を殺された男の「復讐劇」であり、試練を克服して英雄となる「貴種流離譚(きしゅりゅうりたん)」でもあるのです。 加えて、前作はホアキン・フェニックス演じる「コンモドゥス皇帝」が愛されない哀れな男で、ラッセル・クロウ演じる「マキシマス」が奴隷でも剣闘士として愛され大衆に期待される、という皮肉的かつ対照的な構図が面白い作品でした。歴史大作映画は往々にして小難しいという印象を持つ人も多いでしょうが、『グラディエーター』の大筋は分かりやすく、感情移入もしやすい内容だったのです。そのように皇帝と剣闘士(奴隷)の対立がシンプルだった前作に対して、『II』ではかなり複雑化しています。後述するように、デンゼル・ワシントン演じる「マクリヌス」の「権力でローマを支配しようとする」立場を筆頭に、多層的な愛憎劇、政治劇、策略が展開することこそが今作の大きな魅力になっているのです。
2:まさかのサメの登場も、史実を踏まえれば「ない話じゃない」
前作と同様に今作もコロセウム(闘技場)での闘いが大きな見どころであり、「重装備の剣闘士が乗ったサイ」「凶暴なヒヒ」などの「人間以外の相手」とのバトルは、もはや荒唐無稽に思えてしまう人もいるでしょう。24年前の前作ではCGIの技術として実現不可能だったそれぞれの画のインパクトも、今作では大きな魅力になっています。 その中でも「さすがにこれはあり得ないでしょ」と多くの人が思ったであろうことは、「コロセウムが水であふれ、人食いイタチザメで埋め尽くされ、船に乗った何百人もの男たちが戦う」シーンでしょう。しかしながら、実際にローマ人は精巧な水道橋を建設しており、コロセウムにも水を張って船を浮かべ模擬海戦(もぎかいせん)をしていたのだとか。水中にウツボを放して、人が落ちたらウツボに襲われるようにもしていたそうです。そうしたところから、リドリー・スコット監督は「あんなコロセウムを建設できるなら、海洋生物を中に入れることもできるはずだ」とも語っています。実際には海水ではなく湖から淡水を引いていたようですし、さすがにサメまでコロセウムの中で暴れる様には「ないない」と笑ってしまう人もいるでしょうが、史実を踏まえれば実は「ない話ではない」のです。