ヒナタカの雑食系映画論 第136回

『グラディエーターII』が「理想的な続編」になった5つのポイントを解説。一方で批判の声も上がる理由

公開中の『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』について、「理想的な続編」になった5つのポイントを解説しましょう。ただし、明確に賛否を呼ぶ理由もあったのです。(※サムネイル画像出典:(C) 2024 PARAMOUNT PICTURES.)

5:賛否を呼んでいる設定には「血統」の問題も

ここまで『II』を称賛してきましたが、賛否を呼んでいるのは「主人公ルシアスが、かつての英雄マキシマスと、ルッシラの息子」であることです。
グラディエーターII
(C) 2024 PARAMOUNT PICTURES.
実は、前作の序盤ではマキシマスとルッシラは「昔からうそが下手なのね」「あなたはうその達人だ」と話し合うシーンがあり、「かつて2人が恋人同士だった」ことを匂わせる描写があるため、その時にルッシラがルシアスをみごもったことは「あり得る」と解釈できるのです。

しかしながら、これを「後付けの設定のようで不自然」と感じる人が多いのも事実。前作では「受け手に想像させていた」ことを、続編では明確にしてしまっていると言えますし、前作で妻と子どももいたマキシマスに不誠実さを感じてしまうのも無理はありません(しかもその子どもはルシアスと同じ年齢)。

さらに、ハリウッド映画ではたびたび話題になる「血統主義」の問題があります。特に続編で「かつての英雄の子どもがまた英雄となる」様が、「意志を継ぐものは血縁者でなければならないのか」と批判されることがあり、『II』ではその観点からも「ルシアスを無理やりマキシマスの息子にしなくてよかったのではないか」という意見が上がるのは、もっともなのです。

ただし、前作のマキシマスの最期のセリフは「Lucius is safe(ルシアスは安全だ)」であり、彼はその前に会っていたルシアスを潜在的に息子だと確信していたとも解釈できますし、それをもって『II』のラストを鑑みると、より胸に響くものがあります。賛否も当然の設定ながら、それは確かな意図により打ち出されたものと言えるでしょう。

まったく違う続編の案もあった!

最後に余談ですが、以前にはまったく違うバージョンの脚本が開発されていたそうで、それは「マキシマスが死後の世界に到着し、キリスト教徒として復活。キリスト教の拡大を阻止するという使命を帯びてローマに戻る旅に出る」といった「神話的」な内容だったのだとか。

もしもそのバージョンの続編が作られていたら、批判の声は今作の比ではなかったと想像できるので、24年ぶりの続編における「舵取り」は正しかったと思えるのです。
グラディエーターII
(C) 2024 PARAMOUNT PICTURES.
いずれにせよ、賛否も含めて見た人同士と語り合うこともまた楽しいですし、今作からまた前作を見返して、政治や権力の問題を考えることにも意義のある作品であることは間違いありません。何より、スクリーン映えする画やスペクタクルがふんだんなので、映画館で見る機会を逃さないでほしいです。

この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
最初から読む
Lineで送る Facebookでシェア
はてなブックマークに追加

連載バックナンバー

Pick up

注目の連載

  • ヒナタカの雑食系映画論

    『グラディエーターII』が「理想的な続編」になった5つのポイントを解説。一方で批判の声も上がる理由

  • アラサーが考える恋愛とお金

    「友人はマイホーム。私は家賃8万円の狭い1K」仕事でも“板挟み”、友達の幸せを喜べないアラサーの闇

  • AIに負けない子の育て方

    「お得校」の中身に変化! 入り口偏差値と大学合格実績を比べるのはもう古い【最新中学受験事情】

  • 海外から眺めてみたら! 不思議大国ジャパン

    世界で日本だけ……夫婦同姓「最後の国」に国連が4度目の勧告。夫婦別姓トラブルで軌道修正する国も?