ヒナタカの雑食系映画論 第134回

映画『アット・ザ・ベンチ』の“尊さ”から、実写版『秒速5センチメートル』への期待がさらに高まった理由

2025年秋公開予定の実写映画版『秒速5センチメートル』でメガホンを取る奥山由之監督は、11月15日公開のオムニバス映画『アット・ザ・ベンチ』も手掛けています。作品の特徴や魅力、そして『秒速5センチメートル』との共通点を記しましょう。(※サムネイル画像出展:(C)2024 Yoshiyuki Okuyama/Spoon Inc, All Rights Reserved.)

5:『秒速5センチメートル』との共通点は「寂しさ」

この『アット・ザ・ベンチ』で掲げられた大きなテーマであり、かつ(アニメ映画の)『秒速5センチメートル』との何よりの共通点は「寂しさ」を描いていること、もっといえば寂しさを「それでもいいんだ」と肯定していることでしょう。

『アット・ザ・ベンチ』の第1話では(第5話でも)公園がなくなりただ1つだけ残ったベンチに向けての思い入れを語り、さらにはその寂しさはただ悲しいだけではないということを、はっきりと(でも細い希望のように)主張しているのです。
アットザベンチ
(C)2024 Yoshiyuki Okuyama/Spoon Inc, All Rights Reserved.
『秒速5センチメートル』の内容は小学生、中学生、社会人の3つの時代を描くという、それだけを取り出せば『アット・ザ・ベンチ』とは異なるものです。しかし、やはりそれぞれのエピソードにおける「すれ違い」や「別れ」の切なさ、「思い出」の尊さ、そこから主要登場人物2人のさまざまな感情が垣間見える様は、両者で一致しているように思えたのです。

それだけでなく(前述してきた通り『アット・ザ・ベンチ』はエピソードそれぞれで脚本家が異なりますが)、人間の愛おしさや優しさを、美しい風景をもって描くことに、奥山由之監督と新海誠監督には似た作家性があると確信できたのです。アニメと実写で表現方法が異なったとしても、その「芯」を外さないことは、その共通する作家性、あるいは相性のよさからも、「間違いない」と思えたのです。

さらに、奥山監督は公式Webサイトのコメントにて「東京という街は、いつだってうねるように、まるで生き物のように、部分的な変化を続けている。便利になったり、きれいになったり、もちろんいいこともあるのだけれど、いつの間にかなくなってしまう景色を懐かしむ間もなく、記憶は塗り替えられてしまう」などと、やはり実体験に基づく寂しさを(それだけではない散歩コースで実際に見かけたベンチへの思い入れも)語っています。

そんな『アット・ザ・ベンチ』の舞台は、東京・二子玉川の川沿いにあるベンチ。新海誠監督もまた『秒速5センチメートル』のみならず、『君の名は。』や『天気の子』で東京という街(都会)をいつくしむように描いているので、「東京への思い入れ」も両監督は似ているのかもしれません。

2024年には「寂しさ」を肯定する名作が他にも公開

また、くしくも2024年は、他にも『秒速5センチメートル』と『アット・ザ・ベンチ』につながる、寂しさを描く映画が公開され、絶賛を浴びています。
 

それは、4月に公開された24年間すれ違い続ける男女の姿を描く『パスト ライブス/再会』と、11月8日より公開中の犬のロボットの友情をつづったアニメ映画『ロボット・ドリームズ』です。

 

どちらも、長い時間、離れ離れになる切なさをはっきりと描きつつも、それがあってこその「経験」「過去」「未来」をネガティブなものとしては捉えていない、いやはっきり肯定している映画といえるのです。こちらもぜひ、併せてご覧になってください。

※草なぎ剛の「なぎ」は、弓へんに前+刀が正式表記

この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
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