「ママを悲しませたらいけないよ」娘とのただ1つの約束
現在は群馬でともに暮らす長女。しつけに関して特別に意識していることはあるのかと細貝に聞けば、「ないですね」と即答する。「ご飯を食べるときにテーブルに肘をつかないとか、食べ終わった食器は自分で片付けるとか、そういった当たり前のことは妻がしっかり言い聞かせてくれていますが、それくらい。そうそう、僕はいつも妻に食事の後片付けをしてもらっているので、1度娘に言われてしまいましたよ。『パパ、お片付けしてないじゃん』って(笑)」
そんな細貝だが、1つだけ娘と約束していることがあるという。
「『ママを悲しませたらいけないよ』。それだけはずっと言い続けていますね。基本的には妻のような女性に育ってほしいし、妻が悲しむようなことをしなければ、それは真っすぐに育ってくれているということだと思いますから。だから、叱られたりすると僕に謝りに来るんです。たぶん、パパは怒らないと思っているんでしょうね(笑)」
では、娘の将来についてはどう考えているのだろう。現在は英会話や体操教室などさまざまな習い事をさせていて、これから水泳やゴルフのレッスンに通う予定もあるそうだ。自分が両親から多くの選択肢を与えてもらったように、娘にもやりたいことは全てやらせてあげたいという。
「それで楽しめるものが見つかれば続ければいいし、たとえ続かなかったとしても、その経験が何かしらの形で将来につながればいいなと思っています。すごくアクティブな子で、ゲームをするよりも外で遊びたいタイプ。実はほんの遊びレベルですが、サッカーもやっていて。僕に似たのか、結構負けず嫌いな性格をしていますよ(笑)。ただ、サッカー選手になるのは……どうかな。まあ、きっと他にやりたいことが見つかるでしょう」
突然の「膵のう胞性腫瘍」宣告
38歳とベテランと呼ばれる年齢になっても現役を続ける理由には、「娘にサッカーをしている姿をもっと見せたい」という思いも、当然ながらある。そして、そうした思いを強くしたきっかけが、2018年の年末に膵のう胞性腫瘍というがんの一種を患ったことだった。ちょうど柏レイソルからブリーラムへの移籍が決まったころ、体調不良で病院を訪れた細貝は、悪化すれば命にかかわる大病であることを告げられる。「もう頭の中が真っ白になりましたね。“沈黙の臓器”と呼ばれるすい臓はなかなか発見が難しくて、腫瘍が見つかったときには余命1年とか2年とか、進行が早いんです。ああ、俺はもうダメなのかなって思いましたね」
腹部を6カ所も切る大手術は成功したが、HCU(高度治療室)に入っていた2日間は、たまらなくつらかったという。
「体中をいろんなコードにつながれて、寝返りも打てない状態でしたからね。その後、少しずつ良くなってリハビリをするようになったんですが、最初の歩行訓練はサポートをしてもらいながら1日で10メートルずつの往復をするのがやっと。もうプレーするのは無理だろうなって、そのときは思いましたね」