アスリートの育て方 第10回

息子がサンフレッチェのユースに。元日本代表、駒野友一が同じ道を歩み始めたわが子に抱く思い【独占インタビュー】

アスリートが「どう育てられたのか」、そして「どう子どもを育てているのか」について聞く連載【アスリートの育て方】。今回は、元サッカー日本代表の駒野友一さんに、どのような教育方針のもとでわが子を育てているのか「子育て論」を聞いた。

連載「アスリートの育て方」
トップアスリートは、どんな親のもとで育ったのか。わが子をどんな教育方針のもとで育てているのか。幾多の困難を乗り越え、夢を手に入れたトップアスリートの「子育て論」を、『ワールドサッカーダイジェスト』『サッカーダイジェスト』の元編集長でスポーツライターの吉田治良がインタビュー。子どもの夢をかなえるために、親にできることはーーー?


度重なるけがや病気を克服した駒野友一は、その後、自慢のピンポイントクロスを武器に、Jリーグ屈指のサイドバックへと成長を遂げる。
 
サンフレッチェ広島では佐藤寿人、2009年から在籍したジュビロ磐田では前田遼一と、日本を代表するストライカーと好連係を築き、絶妙なアシストを連発。2005年、2007年、2012年とJリーグの優秀選手賞に輝き、磐田時代の2012年には自身初のJリーグベストイレブンにも選出された。
 
プライベートでは広島時代に知り合い、前十字靭帯を断裂した際にも献身的に支えてくれた映己子さんと結婚。現在は高校2年生の長女(京香さん)と小学6年生の長男(友春くん)、2人の子どもの父親だ。
 
もっとも、2016年にFC東京へ移籍してから、2022年に引退し、広島でスクールコーチを務める現在に至るまで、およそ9年間も駒野は静岡に住む家族と離れ、単身生活を続けている。そうした中で、いかにして彼は妻や子どもたちとの絆を育んできたのか。
 
2010年の南アフリカ・ワールドカップ、決勝トーナメント1回戦のパラグアイ戦でPKを失敗した当時のエピソード、長男・友春くんの手紙が話題になった引退試合の裏話も交えながら、自身の子育て論を語ってくれた。
息子の友春くんはサンフレッチェのジュニアユースに入団予定
息子の友春くんはサンフレッチェのジュニアユースに入団予定(画像/駒野友一さん提供)

PK失敗から立ち直れたのは妻のおかげ

妻の映己子さんには頭が上がらないだろう。なにしろ駒野は2016年から約9年間も単身生活を続け、家庭のことは妻に任せっきりだったのだから。
 
「僕自身もどちらかというと勉強をしてこなかった方なので(苦笑)、子どもの教育に関しても口出しすることはなかったですね。妻は自分に足りないものを持っていて、いつもいろんなことに気が付いて行動してくれる。本当に助けられていますね」
 
人生の大きな転機には、決まって妻の支えがあった。左膝の前十字靭帯を断裂し、将来を絶望しかけた時もそうだが、2010年の南アフリカ・ワールドカップで駒野がPKを失敗し、日本が初のベスト8進出を逃したあの時もそうだった。
 
「人の視線って怖いんです。ただ見られるだけで恐怖を覚えることもある。僕がPKを失敗したから日本は負けたって、連日テレビで報道されるし、周りの目が気になるから普通に外を歩けなくなってしまったんです。いろんな情報が耳に入ってきて、当時は自分だけでなく家族の身の危険も感じましたね」
 
そんな駒野を案じて、妻の映己子さんは余計な情報が入ってこない場所へ、旅行に連れ出す。まだ幼かった長女とも久しぶりにのんびりと過ごしたこの家族旅行が、良い気分転換になった。
 
「あの旅行をきっかけに自分の気持ちも明るくなっていったし、またサッカーがしたいって思えるようになったんです」

駒野家の教育方針は「子どもの自主性に任せる」 

こうして再び前を向くことができた駒野だが、長い間家族と離れて暮らす中で、どのようにして子どもたちとコミュニケーションをとってきたのだろうか。
 
「現役時代は月に1度くらい静岡の自宅に帰って、その時は子どもたちとボールを蹴ったりして遊んでいました。娘の思春期も一緒に過ごしてあげることができませんでしたが、それでも昔も今も、仲は良いですよ。たまにテレビ電話をしたら、ちゃんと部屋から出てきてくれますし。もちろん寂しかったでしょうが、今思えば逆にいい距離感だったのかもしれません」
 
基本的に子どもの自主性に任せるのが、駒野家の教育方針だが、最低限のルールを守れなければ、しっかりと叱る。
 
「あいさつとか時間を守るとか、一般常識が身に付いていなくて困るのは結局本人ですからね。そこがズレていれば怒りますよ」
 
一方で習い事に関しては「本人次第」というスタンスだ。長女は幼い頃に4年ほど男子にまじってサッカーをやっていたが、その後はバレエの道に進み、12歳の長男は父の背中を追うようにずっとサッカーを続けている。「小学生の頃の自分によく似ている」という友春くんは、スピードが武器のストライカーで、東海トレセンにも選ばれるほどの実力の持ち主だ。
 
「自分に合ったものは長く続くと思いますし、親の意見を押し付けて強制的にやらせることはありません」
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離れて暮らしていた息子からの手紙
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