「パパと離れて暮らして、寂しかった」息子の手紙
父親と離れて暮らしていても、決して多くの言葉を交わさなくても、ピッチでひたむきに戦う駒野の姿を見て、2人の子どもは真っすぐに育ってくれた。2022年11月、FC今治での引退試合後のセレモニーで、友春くんが駒野に送った手紙からも、親子の深い絆が伝わってくる。多くのメディアでも取り上げられているので、ぜひとも全文を読んでいただきたいが、ここではその一部を紹介する。
実は、サプライズとして用意されていたこの手紙のことは、チームメイトがうっかり漏らしたことで、事前に駒野の耳に入っていたという。僕がパパから1番よく言われたことは、僕がサッカーの試合でミスをして、消極的になったときに、“失敗しても立ち上がって、次に向けて努力をしなさい”と言われました。何度失敗しても、立ち上がって練習して、パパみたいな努力するサッカー選手になりたいです。
「気付いたとしても、俺には黙っておけよってムカつきましたよ」と言って苦笑する駒野だが、それでも手紙の内容までは知らなかった。そこにはこうもつづられていた。
だけど……本当は幼稚園生の頃から、パパと離れて暮らして、寂しかったです。これからはパパと一緒にたくさんサッカーしたり、日本に2人で旅行に行ったり、2人で自転車に乗って公園に行ったりしたいです。
駒野は言う。
「長く離れて暮らした本音が、あの手紙に込められたのかなと思います。寂しかったんだなって。それは長女も妻も同じだったんだろうって、改めてそう思いましたね」
同じ道を歩み始めた息子に抱く思い
あれから1年以上の月日が過ぎたが、その間には広島に住む駒野のもとに長男が1人で訪ねてくるなど、一緒に過ごす時間も増えている。そして今年からは、広島で久しぶりに家族一緒に暮らすことも決まっているという。この春から中学生になる友春くんは、サンフレッチェのジュニアユースに入団する予定だ。自分と同じ道を歩み始めた息子に、駒野はこんな思いを抱いている。
「ここまでは順調かもしれませんが、同じ年齢の頃の自分と比べてもまだ甘えている部分があると思います。これから新しい環境に飛び込んで、周りのレベルも高くなりますから、気持ちの面も技術的にもさらに磨いていかなくては、きっと成長はありません。昔から言われているように、練習はうそをつかない。全ては自分次第でしょうね」
恵まれた環境で育った子どもたちが、駒野と同じようにストイックに目標に向かって突き進むのは、もしかしたら難しいことなのかもしれない。それでも、あえて駒野は言う。
「僕自身、サッカー選手になるという夢をかなえ、好きなことを仕事にできて、ここまで良い人生を送ってこられたと思っています。だから子どもたちにも夢をつかんでほしいですし、そのためには自分もそうでしたが、何かを犠牲にしなくてはならない時もある。サッカーでもトッププレーヤーと呼ばれる人たちは総じてストイックですし、見えないところで必ず陰の努力をしていますからね」
「もちろん、その過程では壁にぶつかることもあるでしょう。でも、失敗しても下を向かず、常に前を向いて進んでいってほしいと思います」
自身がそうやって成功をつかみ取っただけに、その言葉には説得力がある。