アスリートの育て方 第13回

なぜ元日本代表・細貝萌は、ずっとサッカーエリートでいられたのか。幼少期に訪れた、知られざる転機

トップアスリートが「どんな環境下で育ったのか」、そして「わが子をどんな教育方針のもとで育てているのか」について聞く連載【アスリートの育て方】。今回は、元サッカー日本代表・細貝萌に、どのような両親のもとでどう育てられたのか、話を聞いた。

エリートフットボーラー、細貝萌

小学生時代から活躍していた細貝萌さん
小学生時代から活躍していた細貝萌
その端正な顔立ちもあいまって、細貝萌には“エリートフットボーラー”の印象がついてまわる。
 
実際、小学生時代から地元の群馬県前橋市では名の知れた存在で、県内有数の少年サッカー団、FC前橋ジュニアユースに所属していた中学3年生のときにU-15日本代表に選出されると、そこからU-18まで各世代別代表に名を連ねてきた。
 
高校は名門・前橋育英に進学する。当時はトップ下で、エースナンバーの10番を背負ってチームをけん引。3年時には特別指定選手として浦和レッズに加わり、卒業後の2005年には、同チームにそのまま入団している。
 
Jリーガーとなってからはセンターバック、サイドバック、ボランチなど複数ポジションをこなすユーティリティープレーヤーとして活躍し、2010年9月には日本代表としてデビューを飾った。中でも印象深いのは、2011年1月のアジアカップだろう。準決勝の韓国戦、延長前半に本田圭佑のPKのこぼれ球に鋭く反応して押し込んだ代表初ゴールは、2大会ぶり4回目のアジア制覇へとつながる価値ある一撃だった。
 
このアジアカップ後からは活躍の場をヨーロッパに移す。アウクスブルク、バイエル・レバークーゼン、ヘルタ・ベルリンなど主にドイツのクラブでキャリアを重ね、ブンデスリーガ1部で通算100試合以上の出場を果たした。
 
まさに「エリート」と呼ぶにふさわしい経歴の持ち主だが、しかし、決してその道のりは順風満帆だったわけではない。彼のサッカー人生を、いや“人間・細貝萌”を突き動かす原動力となったのは、大切な家族、そして自らが経験した大きな病だった──。
 
38歳となった今も生まれ故郷のJリーグクラブ、ザスパ群馬でプレーする細貝に、まずは幼少期を振り返ってもらった。

双子の兄に張り合うことで育まれた競争心

甘えん坊で、負けず嫌い──。そんな幼少期のキャラクターを形成したのは、なかなか珍しい家族構成だったのかもしれない。
 
細貝萌は1986年6月10日、群馬県前橋市に生まれた。父親はサラリーマンで、母親はパート勤めというごく一般的な家庭だったが、珍しいのは3つ上に一卵性の双子の兄(拓と聡)がいたことだった。
 
「兄2人は同じ服を着ているのに自分だけ違うとか、(2人の)誕生日に自分だけケーキがないとか、仲間外れみたいな感覚がありましたけど、そのへんは家族がうまくコントロールしてくれましたね。兄たちの誕生日に僕専用のケーキを用意してくれたり(笑)」
 
細貝家には特に厳しいしつけのルールもなく、やりたいことを自由にやらせてもらえる環境で、萌はのびのびと育った。
 
「勉強しなさいなんて言われることもなかったし、逆に夜中までテスト勉強をしていたら、『そんなに根を詰めなくてもいいんじゃない?』って言われたくらい(笑)」
 
「特に末っ子の僕には、両親も甘かったかもしれませんね。なんでも我慢させられるのは兄たちでしたから。そのせいか、小さい頃は両親にべったりで過ごすことが多かったし、風邪を引いたときも、兄たちは子ども部屋で寝るんですけど、僕はリビングの真ん中に布団を敷いてもらっていましたね」
 
一方で、負けず嫌いの性格は、兄たちの存在によって育まれた。幼稚園の年中組の頃から2人の兄にくっついて地元の少年団(広瀬FC)でサッカーを始め、小学1年生で正式に入団するのだが、その頃にはもう競争心が芽生えていた。
 
「かけっこ1つをとっても、当然兄たちにはかなわないわけですが、それが本当に悔しくて。サッカーも2人と同じようにできなきゃ嫌だった。普段の性格は両親に似て、兄弟の中で1番穏やかだと思いますが、サッカーや勝負事となると誰よりも負けず嫌い。それは僕自身も、家族のみんなも認めていますね」
 
兄たちに張り合うことで育まれた競争心。1番身近にいるライバルの存在がなければ、あるいはJリーガー・細貝萌は生まれなかったかもしれない。
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「俺が頑張らなきゃ……」小学生の頃に訪れた転機
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