5:「歌」と「色」で世界をも肯定する
以下、決定的なネタバレは避けたつもりですが、中盤以降のセリフや終盤の展開に少し触れています。映画を未見の人はご注意ください。トツ子の「私たちのバンドに入りませんか」といううそから始まった出来事と3人の関係は、その後も非常に尊いものとして描かれます。
本来は罰だったはずの奉仕活動についても、トツ子は(きみとの時間を過ごせたため)「もうすぐ“終わっちゃう”ね」と言っていますし、雪のために離島から帰れなくなったことも「合宿」にしてしまいますし、ルイはその夜に「なんかすごいね、僕たちは“好き”と“秘密”を共有しているんだ」と喜んだりします。うその先にあった、そうした「本音」と、3人の出会いは奇跡だと思えたほどです。 ライブで披露した『あるく』『反省文~善きもの美しきもの真実なるもの~』『水金地火木土天アーメン』それぞれで、3人は自らの気持ちを歌として肯定し、その感動を誰かに届けることができています。特に『水金地火木土天アーメン』で「きみ(の色)」「ルイ(腺)」という、トツ子目線での2人の名前が歌詞に入っていることに注目するといいでしょう。
最後にはとある大きな声の、「激励」が届けられます。それは心からの気持ちであるとともに、本当の「好き」という「秘密(本音)」は隠したままであること、それもまた尊い選択だと思えることに、涙腺を刺激されました。
また、本作のサウンドトラックにおける楽曲のタイトルは、「244, 233, 227」などといった数字。これは「光の三原色」を示す数値であり、赤、緑、青のそれぞれの色の強さを0〜255の値で示し、全てが0なら真っ黒で、全てが255なら真っ白になります。
サウンドラックを聴きながら、映画ではどのシーンで流れていたのかか、はたまた「255, 255, 255」と数字が「全て最大になる(つまり真っ白)になる」のはどんな時なのかを、振り返ってみるといいでしょう。
そして、映画のラストシーン(エンドロールに入る直前)では、トツ子が人に感じている色ではなく、現実を描写したシーンでも、ある色がはっきり映し出されます。そこから感じたのは、「現実もまた色とりどりで、これほどまでに世界が美しく感じられる瞬間はある」という普遍的な事実でした。 大げさではなく、この『きみの色』を見た後は、歌を聴いている時も、さらには世界にある色を見た時も、誰かと話している時も、それぞれがなんて尊いのだろうと、改めて気付くことができるのです。
アニメとしての作り込みを思えば、きっと何度見ても新しい発見があることでしょう。ぜひ、細かいところにも目を向けつつ、この『きみの色』を最大限に楽しんでほしいです。
この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。