5:あらすじから『ドント・ブリーズ』の監督らしい内容
今回の『ロムルス』のあらすじは、植民地の劣悪な環境で暮らす6人の若者たちが、漂流中の宇宙ステーションを乗っ取ろうとするというもの。専門知識も、戦闘能力も、特別なスキルも持ち得ていない、社会的に恵まれてはいない若者たちを描いているのです。それを踏まえて注目したいのは、監督が日本でもスマッシュヒットをした2016年公開のホラー『ドント・ブリーズ』のフェデ・アルバレス監督であること。『ドント・ブリーズ』は、若者たちが「泥棒」に入り、そこにいた恐ろしい存在(盲目の元軍人の老人)から逃げまどいつつも戦う内容であり、さらには若者たちの「貧しさ」がそもそもの行動原理になっているなど、今回の『ロムルス』と符合しているところがとても多いのです。
それだけでなく、「音を立てないようする」といったハラハラドキドキの展開も『ドント・ブリーズ』から受け継がれています。後述するエイリアンの第2形態である「フェイスハガー」は「目がない代わりに音と体温に反応する」生態であり、その側を通らなければならなくなる「音を立てたら終わり」な「鬼ごっこ」も展開するのです。
その他のシチュエーションでも、「制限された空間」が生かされた攻防戦はスリリングで、時には驚きのギミックが飛び出し、さらに物語を盛り上げてくれます。その発端、スリル満点のアイデア、恐怖シーンの見せ方に至るまで、「『ドント・ブリーズ』の監督が撮った『エイリアン』」として大いに納得できる&極限まで面白くなるように工夫された作品なのです。
なお、タイトルの「ロムルス」とは、ローマ帝国の建国神話に登場する双子「ロムルスとレムス」が元ネタで、劇中ではロムルスとレムスの2つのブロックに宇宙ステーションが「分かれている」ことも面白いギミックになっています。この異なる視点を描きながらシチュエーションを盛り上げることも、『ドント・ブリーズ』に通ずるポイントです。
6:「形態変化」がシリーズ中でも最恐に
個人的に、今回の『ロムルス』のエイリアンは過去最恐でした。その理由の筆頭は、エイリアンの特徴である「形態変化」の恐ろしさが、1作目を踏襲しつつも、より強く打ち出されていることにあると思います。卵のような第1形態「エッグチェンバー」から不穏ですし、今回のポスターアートになっている第2形態「フェイスハガー」は「顔に抱き付く者」という名前の通り人間の顔に張り付く時点で気持ち悪い……そのまま人間を殺したりはしない理由が分かっていく過程には、『エイリアン』を知らない人こそ、いい意味で「生理的嫌悪感」を抱くことになるのではないでしょうか。
第3形態「チェストバスター」が「胸部を破壊する者」と名付けられた意味は……知らない人のためにここでは秘密にしておきましょう。
第4形態「ゼノモーフ」は昆虫が進化したような造形の、人間よりも大きな成体。唾液や体液が強酸性で全てを溶かす姿も含め、対峙(たいじ)するだけで絶望を与えるような存在でした。
今回の『ロムルス』における最大の恐怖は、実はそれ以外のことにあるのですが……それはどう記そうがネタバレになるのでここでは伏せておきましょう。
ともかく、変化していく形態それぞれで人間たちが蹂躙(じゅうりん)されていく様が、他のホラー映画のキャラクターと一線を画すエイリアンの怖さなのだと、再認識したのです。