ヒナタカの雑食系映画論 第118回

映画『ラストマイル』、物流問題を「自分事」として考えさせる作品構造の強さ。併せて見てほしい2作品

大ヒットを遂げている映画『ラストマイル』、その挑戦的な試みが見事に成功した理由を解説するともに、連想した2つの実写映画を紹介しましょう。(※サムネイル写真は筆者撮影)

宅配ドライバーの家族が悪循環に陥る『家族を想うとき』

この『ラストマイル』から多くの人が連想しているのが、2019年のイギリス・フランス・ベルギー合作の映画『家族を想うとき』です。劇中で主に描かれるのは、宅配ドライバーのブラックな労働環境に父親が心身ともに疲弊していき、さらに家族間でボタンの掛け違いが次々に起こるという悪循環。『ラストマイル』における、委託ドライバーの親子のパートのみを描いた作品ともいえるでしょう。

原題が『Sorry We Missed You(お会いできずにすみません)』という「不在票」の言葉になっているのは、つらい状況でも「謝った上で、それでも仕事を続けるしかない」労働者とその家族の悲しみを表現しているかのようでした。見ていてとてもつらい内容でもありますが、親しみやすいユーモアも込められていますし、だからこそ確かな家族の愛情に涙を禁じ得ない傑作に仕上がっています。

季節労働者の問題を簡単にジャッジしない『ノマドランド』

2021年に公開され、第93回アカデミー賞で作品賞、監督賞、主演女優賞の3部門を受賞したアメリカ映画『ノマドランド』は、車上生活を送りながらも、季節労働の現場を渡り歩く女性を描いたロードムービーです。実際にAmazon.comの倉庫で働く高齢女性の記事が着想元になったノンフィクション本を原作としており、もちろん大局的に労働者の問題を考えることもできる内容ですが、決してその問題だけを糾弾する内容にはなっていません。

実際の車上生活者たちを多く起用する「半ドキュメンタリー」な特徴を持っていますが、それぞれの生活を大自然の美しい光景とともに映すこともあって、恣意(しい)的に観客を誘導するような作りにはなっていない、問題に対して単純なジャッジを下したりもしないのです。一面的ではない労働者の姿、人間としての在り方を示すこともまた、映像作品の役割なのだと思うことができました。

『魔女の宅急便』から改めて思うことも

さらに、日本の言わずと知れたアニメ映画『魔女の宅急便』に登場する、「あたしこのパイ嫌いなのよね」という言葉に、『ラストマイル』を連想したところもあります。表面的にはその少女の言葉は無神経に感じてしまうところですが、実際は宮崎駿監督が言うように「ああいうことを経験するのが仕事なんです」「世間にはよくあること」であり、そのこと自体は大したことでもないともいえます。

【関連記事】『魔女の宅急便』の「あたしこのパイ嫌いなのよね」の意味を徹底考察。少女は果たして“悪い子”なのか

それでも、この言葉を反面教師として、消費者側が配送(物流)の仕事をしている人への苦労を考えることには意義がありますし、最低限の敬意も見失ってはならないとも思えるのです。

実際に『ラストマイル』には2人の子どもと暮らすシングルマザーという消費者側からの視点もありますが、それは『魔女の宅急便』とは良い意味で対照的(あるいは似ている)と思えました。ぜひ、そうした多角的な視点も含めて、これらの作品に触れてみてほしいです。

この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
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