5位:『新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる!』(8月9日より公開中)
主人公は憧れの作家を見つけるために新聞部へ潜入し、見習い記者として活動する女子高生。内容はザ・エンタメで、「憧れの作家は誰?」というミステリー要素を前提に、初めての仕事でコツをつかんだり戸惑ったりする「仕事映画」の魅力を備え、学園の理事長からの理不尽な圧力を受けても反撃の道を探すという、「巨悪に立ち向かう」痛快さも備えています。
それでいて、タッグを組む部長からは「手に入れた事実には、公正な視点でメスを入れていく」といった真っ当な教えを受ける一方、「証拠をつかむまでは、ターゲットに徹底的に食らいつき離さない」といった強引な取材方針に危機感を覚え、そのやり口が時に「詐欺師に近い」とまで評されるなど、ジャーナリズムをむやみやたらに肯定せず、職業倫理的な問題を指摘するバランスも誠実に思えました。
荒唐無稽ともいえるフィクションではある一方、原案となっているのは、日本大学藝術学部・映画学科に在籍中だった高校生が、当時世間を騒がせていたアメフト界の“悪質タックル問題”と、母校の不祥事から着想を得て作成した企画書だったのだそうです。若者が現実を見据えて、確かな意志を持ち奔走する記者へのリスペクトを掲げた物語を提示したという事実にも、尊さを感じます。
4位:『マンガ家、堀マモル』(8月30日より公開)
シンガーソングライターのsetaが原作を務めた作品で、新人賞を獲得するもののスランプに陥って描くものがなくなってしまった漫画家の前に、小学生、中学生、高校生の3人の幽霊が現れ、「漫画を描かせてあげる」と告げられる物語です。その幽霊から語られる3つのエピソードが愛おしいですし、それぞれの過去にあるモヤモヤや後悔を漫画で表現し、「癒していく」ような優しさが、さらに大きな物語につながっていく様にとてつもない魅力を感じました。
漫画家を主人公としていて、さらに「かつて一緒に漫画を描いていた大切な人」に思いをはせる姿などから、現在も公開中の『ルックバック』を連想する人も多いかもしれませんが、本編における「創作に込められた意志(意思)」を肯定する物語を踏まえれば、「もう1つの『ルックバック』だ!」とさえ思えました。もちろん偶然の一致なのでしょうが、創作物を生み出す人の尊さを真摯(しんし)に示した作品が、連続して世に送り出されたことそのものが、とてもうれしく思えます。
ドラマ『君の花になる』(TBS系)で人気を博した山下幸輝が主演を務めており、真面目な好青年であると共に、少し憂いを感じさせる存在感も素晴らしかったです。中盤から終盤にかけての演出も巧みで、映画としての表現の大胆さと工夫にも感動がありました。原作者のseta自らが書き下ろして歌った主題歌と、槇原敬之が主人公の心情に寄り添った目線で歌詞を書いたと語るエンディングテーマにも聞き入ってほしいです。