「視聴率の多様化」で失われた五輪の醍醐味
つまり、人気スポーツがあまり盛り上がらなかった。ただこうした状況に加えて、筆者が、今回のパリ五輪が盛り上がっていないように感じるのには、五輪というスポーツ大会の「消費の仕方」が変わったからだ、と見ている。今回のパリ五輪は、多くの若者を視聴者として取り込むために史上最もデジタル化した五輪という触れ込みだったが、そうしたデジタル化の波は日本にも来ていた。
これまでの五輪なら、地上波やBSでしか視聴できなかったので、テレビから流れてくるルールもよく分からない競技が次々と放送され、普段触れることがないスポーツを五輪だからこそ楽しめるという醍醐味(だいごみ)があった。そういう雰囲気が「祭典」という空気を作っていたのだが、今回は、「TVer」「NHKプラス」など、オンライン上でストリーミング視聴することができた。それによって、見たい競技だけをピンポイントで見る傾向が強まっており、テレビから勝手に流れてくる五輪競技を見る人の絶対数が減ったと考えられる。視聴の多様化によって、五輪は盛り上がりに欠けている印象が出てくる。
さらに、今では、選手たちが試合までの準備や、試合後の様子などを、メディアインタビューだけでなく、SNSなどで配信できるようになっている。X(旧Twitter)やInstagramのアカウントを見ると、選手が情報をアップデートしていて、そこからスマートフォンやパソコンを使ってオンラインで五輪の視聴する形につながっているのだ。個人が好きな時に見ることができるようになっため、結果として大勢で盛り上がるケースが減っている。
アメリカでは、視聴率対策が功を奏した
では、他の国ではどうか。アメリカでは、パリ五輪の放映権を持つNBC(ナショナル・ブロードキャスティング・カンパニー)が、国内で視聴者を取り込むため、人気ラッパーのスヌープ・ドッグをアンバサダーとして起用。カジュアルでエンターテインメント性の強い五輪のイメージを打ち出し、公式Webサイトなどで大会の動画を配信している。そうしたこともあってか、アメリカでは視聴率が東京五輪と比べて平均で79%アップしているという。ネットと合わせると視聴者数はさらに多いだろう。メダル獲得数も増え、スター選手がいろいろな競技で活躍するアメリカではパリ五輪が意外と盛り上がっている。フランスでも、地元の人すら意外に感じるほどの盛り上がりを見せている。実は、パリ五輪はコロナ禍が明けてから初めての大会ということで、広告スポンサーなどは盛り上がっていた。フランス国内で80社ほどのスポンサー企業が五輪のために集まり、収益目標の13億ドルほどを達成すると見込まれている。
パリ五輪がフランスで盛り上がっているのは、競技で善戦していることが大きい。8月5日時点ですでに獲得メダル数が前回の東京五輪の2倍になっている。もともとパリのレストラン経営者やビジネスパーソンらは、五輪で迷惑を被るとして苦情を上げていたが、それらもいつの間にか消えてしまっているようだ。閉会式にはトム・クルーズや有名歌手などが登場する予定で、盛り上がりは閉会式までそれなりに続くと見られている。