世界を知れば日本が見える 第50回

日本で「パリ五輪」がいまいち盛り上がらなかったワケ。フランスを含む、他国の注目度はどうだった?

7月26日から8月11日まで開催される、パリ五輪。自国開催だった東京五輪を経て、日本代表選手の活躍に注目が集まる昨今だが、一部では「今回の五輪、あまり盛り上がっていないのでは?」といった声も。(サムネイル画像出典:Franck Legros / Shutterstock.com)

セーヌ川汚染、政治デモ……しかし、開催後には大盛り上がり?

実は、フランスでは、大会の開始前からあまり期待値は高くなかった。大会開始の4カ月前に行われた調査では、フランス市民で五輪を楽しみにしていると答えたのは、回答者のうち3分の1(37%)だけだった。別の統計でも、スポーツ報道に興味があるメディア関係者の中で、世界的なスポーツイベントであるパリ五輪を楽しみにしていると答えたのは55%ほどに過ぎなかった。
 
その理由に挙げられていたのは、市民生活への影響だ。パリ周辺やフランス各地での交通制限などが話題になっていた。また大会前からオーストラリア人女性が集団性的暴行を受けたり、五輪のチームが街中や練習場などで強盗に遭ったりするなどの事件も発生していた。さらに治安について言えば、大会前に選挙があったことで、フランス各地で移民問題など政治的なデモなどが頻発していたこともある。
 
加えて、開会式の舞台で、トライアスロンの会場にもなったセーヌ川の水質汚染が問題視されたりもした。そんなところで競技ができるのか、と。
 
テロの問題も懸念材料になっていた。3月にロシアの首都モスクワ近郊のコンサートホールで280人以上の死傷者を出した大規模テロが発生し、イスラム過激派組織「イスラム国」が犯行声明を出していた。フランスでもイスラム系の移民にからんだ激しいデモや小競り合いなどが起きていたことで、そうしたテロに対する脅威が心配されていたのである。
 
そうした空気が広がっていたこともあり、フランス国内でも盛り上がらないであろうと思われていたパリ五輪だが、ふたを開けてみれば、市民はかなり楽しんでいるらしい。結局、開催国で自国の選手が活躍してメダルを数多く(第二次大戦以降で最多を記録している)獲得する姿を見ていたら盛り上がるのかもしれない。

開会式の“炎上“も、フランス的には大成功だった?

開会式では、トランスジェンダーや女装家などが登場したことで、その設定が「最後の晩餐」を揶揄(やゆ)しているとして大きな物議を醸した。キリスト教を冒涜(ぼうとく)しているといった批判も出て、組織委員会は謝罪をした。だが結果的に、世界的に大きく注目される結果にもなった。ジェンダーの問題や宗教に絡んだ議論で大会が世界的に話題になった時点で、風刺画などの文化があるフランスにしてみれば、実は“大成功だった”と見ているのではないだろうか。結果的に、フランスにしてみれば満足の行く大会だった、ということになるはずだ。
 
日本ではあまり盛り上がっていないと言われるパリ五輪だが、次回2028年のアメリカのロサンゼルス五輪では、野球もソフトボールも競技に復活することになっている。今回よりも、盛り上がる要素は多くなりそうだ。
 
この記事の筆者:山田 敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)。近著に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)がある。

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