ヒナタカの雑食系映画論 第109回

都知事選を想起させる? 映画『もしも徳川家康が総理大臣になったら』の「大真面目な面白さ」を解説

2024年7月26日より劇場公開される映画『もしも徳川家康が総理大臣になったら』。「トンデモ」な内容に思われるかもしれませんが、実は「大真面目」な魅力があったことを解説しましょう。(サムネイル画像出典:(C)2024「もしも徳川家康が総理大臣になったら」製作委員会)

坂本龍馬の夢女子(男子)の“ガチの夢”をかなえる赤楚衛二

豪華キャスト陣それぞれが素晴らしいのですが、中でも特筆すべきは赤楚衛二演じる坂本龍馬でしょう。端的に言って、めちゃくちゃかっこいい! 「ぜよ」を筆頭とする土佐弁のハマりぶり、カリスマ性と心を全て預けたくなる親しみやすさを兼ね備えており、考えうる限り最高のキャスティングおよび演技というほかありません。
 

これはもはや、坂本龍馬の夢女子(男子)の“ガチの夢”を、実写における最高の形でかなえていると言っても過言ではありません。夢女子とは自分あるいは自分を投影したオリジナルキャラクターが創作物と関わることを夢見る人を指す用語。これまで夢女子ではなかったという人も、後述する主人公の「正直さ」を褒めてくれる上に、若干のツンデレさもいいスパイスになっている坂本龍馬こと赤楚衛二に対して、「あっ、好き。大好き」となり動悸が止まらなくなることでしょう。

さらに、カリスマ性が青天井で「ダークヒーロー」的な印象もある織田信長役のGACKT、とある有名テレビ番組のパロディがハマりすぎている北条政子役の江口のり子なども、これ以上なく魅力的。見た人それぞれの「推し」もきっと見つけられるでしょう。
 

いい意味で「冷めさせてくれる」浜辺美波演じる主人公

物語上では最強ヒーロー内閣はなんだかんだで国民に大いに受け入れられ、政治を「政(まつりごと)」と呼ぶことにならうかのように「お祭り」騒ぎにもなるのですが、浜辺美波演じる新人テレビ局員の主人公が「冷静な視点」を持ち続けていることも重要でした。
 

例えば、彼女はまるで「パリピ」のように登場する竹中直人演じる豊臣秀吉に対して「ああいうノリ生理的に無理なんです」と正直に言ったりもします。つまりは「陰キャ」寄りのキャラクターでありつつも、とある失敗を経て、今までほとんど知らなかった坂本龍馬に対して一夜漬けで勉強をしたりするなど、根は真面目な努力家でもある、とても好感の持てる人物なのです。

それだけでなく、主人公は初めこそ国民から批判が殺到していたのに、政策が成功して打って変わって称賛されお祭り騒ぎになるという、絵に描いたような「手のひら返し」の危うさもはっきりと口にします。やはり、彼女は観客の目線に極めて近い、いい意味で「冷めさせてくれる」役割でもあり、それが最終的に強く打ち出された、とあるメッセージにも綿密に絡んでいることもクレバーでした。

なお、同じく武内英樹監督と徳永友一の脚本というコンビで送り出した『翔んで埼玉』も、荒唐無稽な話をラジオで聞く「現実的な視点」を挟む構造がありました。そちらが原作にない映画オリジナル要素だったのに対し、今回は原作からある主人公像ではあったのですが、その作家コンビのアプローチが引き継がれていることも興味深い点です。
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歴史上の偉人のカリスマ性にただ溺れ、盲目的になることの危うさ
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