世界を知れば日本が見える 第48回

「低所得者なのにディズニーに行こうとするなんて…」いつから夢の国は「格差社会の象徴」になったのか

ディズニーシーの新エリア開業が話題になる中、近年のチケット価格の高騰にも改めて注目が集まっている。ディズニーリゾートが「格差社会の象徴」になりつつあるのは、実は日本だけではない。(サムネイル画像出典:Ned Snowman / Shutterstock.com)

東京ディズニーリゾートは、世界で唯一の運営方法

世界ではディズニーランドが6カ所(カリフォルニア州、フロリダ州、パリ、香港、上海)でオープンしているが、実は東京ディズニーリゾートは、世界で唯一、ディズニーとライセンス契約をしているだけで出資は受けず、運営はディズニー社から独立して行っている。
 
オリエンタルランドの元関係者は、本部のディズニー社が「特別に高いクオリティと集客を維持している日本にだけは口を出すつもりもないのです」という。外資にありがちな本社のトップダウンで方針がコロコロ変わることはなく、世界でも特別の価値を提供している東京ディズニーリゾートは「年間パスで来てもらうより、誕生日など特別な機会に来園してもらえばいい。それがさらに特別な体験になる。その価値にお金を出せる人たちに向けたサービスという色合いが濃くなっていくでしょう」とも語った。
 
さらに日本は、今後ますます少子化が進む。また現在、実質賃金(物価の影響を考慮した働き手1人あたりの賃金)が25カ月連続で減少を続けている。「今後、ディズニーランドに気楽に遊びに行ける人は減ると見られている。それを見越せば、高い入場料を払ってもらって高い価値を提供する方向にシフトしていくのは仕方がない」とも、この元関係者は指摘する。
 
入場料に加えて、追加でお金を払って優先的にアトラクションを楽しめるプレミアチケットも、「ディズニー格差」を象徴しているといえよう。

アメリカでは、ディズニー旅行のために借金する親が77%

ディズニー入場料の値上げなどに対する意見の違いなどを拾ってみると、ディズニーリゾートはすでに庶民が気楽に利用できる娯楽施設でなくなっているのが分かる。そして、ディズニー側もその点に意識的であり、お金を出せる人たちに向けた特別な場所にシフトしているということだ。
 
こうした状況は東京だけのものなのか。実は、世界のディズニーランドも入場料は高い。
 
例えば、本場アメリカのカリフォルニア州にあるディズニーランドでは、1日の入場料は変動価格制で、大人なら最大で194ドル(約3万円)にもなる。

この入場料は、アメリカ人の多くにとっても気楽に支払える金額ではない。事実、アメリカのオンライン金融サービス企業が2023年に行った調査では、アメリカでは18歳未満の子どもを持つ77%がディズニーランドを訪れるために借金をした経験があると答えている。たださすがに夢の国だけあって、ディズニー旅行のために借金をした親のうち、59%が借金しても行って良かったと答えている。

「低所得者なのに、ディズニーランドに行こうとするなんて」

同じ調査では、ディズニーランドに行かない理由の1位は、「Too Expensive」(高すぎる)で、全体の48%を占めていた。そしてアメリカでも、SNSなどでディズニーランド(またはフロリダのディズニーワールド)は高すぎるという議論が起きているが、「低所得者なのに、ディズニーランドに行こうとするなんて、あなたはファンタジーの中で生きている」なんていう辛らつな意見もあり、ディズニーランドがもはやお気楽な遊園地ではなく、格差社会の象徴になっているというコメントすらある。
 
これは世界どこでも共通だが、ディズニーランドに行くには、交通費もかかるし、近くに住んでいなければ、宿泊費などもかかる。そうなれば、ますますディズニーランドに行く費用が高くなり、庶民ではなかなか遊びに行けない世界になっている。

夢の国への体験には、それなりの「対価」が必要

ただ同ディズニーランドのテーマである「Happiest Place on Earth(地球でもっとも幸せな場所)」を体験するには、それなりのお金を払わないといけないということだ。東京ディズニーリゾートもそうだが、世界でもその貴重な体験が付加価値となり、ディズニーリゾートの価値を高めている。安い遊園地なら、ディズニーのようなブランディングを維持したり、価値観を提供することはできない。
 
日本でも、ディズニーリゾートは気軽に行けるような遊園地ではなくなっているが、これまでの推移を見ても、今後、入場料だけでなく、園内のレストランなども値上げを続けるだろう。「夢の世界」を味わうには、それなりの金額を払う必要があるということだ。
 
この記事の筆者:山田 敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)。近著に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)がある。

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