「こんなことを言ったら叱られるかもしれませんが」 ミン・ヒジン VS HYBEを見て20代編集者が思うこと

K-POP業界は今、大きく揺らいでいる。大手事務所HYBEと傘下レーベルADORの代表で、NewJeansのプロデューサーであるミン・ヒジンさんが背任問題を巡り大バトル中だ。アーティストやファン、法廷を巻き込んだ泥沼の争いを整理する。※サムネイル写真:YONHAP NEWS/アフロ

暴露合戦から透けて見える「人間関係のこじれ」

ゆりこ:今回の件だけではなく、この4カ月ほどHYBEの株は下落傾向だったんです。そこにさらなる打撃で大暴落。さらにNewJeansのカムバ(新曲発売)を控える大事な時期になぜ? とも思いますよね。繰り返される暴露合戦からは根深い“恨み”の感情が読み取れます。

矢野:どんなにお金を稼いでくれる人でも、いくら報酬をくれる会社でも、「これ以上一緒にやるのは無理」という“人間関係のこじれ”がベースにあるということですね。お金で目をつぶれる域を超えてしまったと。

ゆりこ:SMのお家騒動のときも、創業者と後継者であったおいの間にいろいろな感情が渦巻いていたかと思いますが、重要な目的は「SMを立て直す」「改善させる」ことであって、あくまでも会社を主語にした騒動でした。ただ今回はもっと私的な感情やプライドに重きを置いた争いに見えてしまう。ミン・ヒジンさんの会見の中でも、それを象徴するような韓国のことわざが出てきました。

 

여자가 한을 품으면 오뉴월에도 서리가 내린다
女が恨みを抱けば、5、6月にも霜が下りる
=(初夏に霜が降りるほど)女の恨みは怖い


矢野:そんな言葉があるんですね。一方で内部告発の話も出ていましたが。
 
ゆりこ:はい。ミン・ヒジンさんは記者会見で、HYBEグループ内の“悪い慣習”について内部告発したことが、ADORに監査が入るきっかけだったと話していました。自分のプライドやNewJeansだけではなく、業界の未来も守りたかったという主張です。

矢野:HYBE側の言い分を見ると、アーティストを守ろうという確固たる “目的意識”よりも、経営陣たちの命令に従わず、意見してくる人間を処罰したいという憤りが見え隠れします。一方、ミン・ヒジンさん自身が言っていた通り「雇われ社長」である限り、全て好き勝手にできないのも仕方ないのかな、と思ったり。全部自分のお金とパワーで成し遂げたのなら自由にできますが……。

ゆりこ:それも一理あります。ネット掲示板にHYBE本社の社員だという人たちが匿名で書き込んだ内容が韓国で報道され、話題になっていました。HYBE側のスタッフがいかにNewJeansのために予算やパワーを使って頑張ってきたか、裏で必死に働いてきた人たちの苦労や貢献を無視しないでほしいという声です。

矢野:確かにHYBE側で頑張ってきたスタッフがミン・ヒジンさんの会見を聞いたら、悲しい気持ちになるでしょうね。やはり、実質的には「HYBE」というより「HYBEトップ(代表取締役社長と取締役会長)の2名」VS「ミン・ヒジン」という構図なのだと思うんです。こんなことを言ったら叱られるかもしれませんが、僕には“大人たちによる子どもっぽいけんか”に見えて仕方ない。

ゆりこ:矢野さんの口から本音が出てしまった(苦笑)。10代、20代の人からすれば、お金も地位もキャリアもあるいい歳の大人たちが、未成年も含むアーティストまでも巻き込んで一体何を……というのは至極真っ当な意見だと思います。実は韓国でも徐々にこの件の報道は減少傾向にあります。互いにこれ以上の暴露合戦は今後の裁判に影響が出ると踏んだのか。いずれにしても、韓国の知人たちは口をそろえて「HYBEのニュースにはもう食傷気味」と言っていました。

矢野:ファンの見えない水面下で、トップ同士が長い間もめてきたことは分かりましたが、ここに至るまでのコミュニケーションに不足があったように感じます。どうにか社内の会議室の中だけにとどめて、収拾をつけられなかったのだろうかと。公にしなければ、傷つかずに済んだ人もいたのではないでしょうか。僕は1人のK-POPファンとして、また純粋にK-POPを楽しめるような環境になってほしいと思います。まあ、今さら言っても仕方のない理想論できれい事ですが。大人の事情があることも十分に理解しているつもりです(偉そうなことを言ってごめんなさい!)。
 
ゆりこ:話し合いすら不可能なほど大きな亀裂が入っていたのかもしれませんが、家族経営の中小企業ならまだしも、HYBEは世界的に名の知れた上場企業ですからね。5月15日にはついに韓国公正取引委員会によって「大企業集団」に指定されました。エンタメ企業として初めてのことです。韓国経済をプラスにもマイナスにも動かしうる存在として、さまざまな情報の公示義務が発生します。社内紛争をダラダラ続けてはマズイ状況です。

矢野:後編は大元となったミン・ヒジンさんの「内部告発」の内容や、K-POP業界が抱える問題点についてお話ししようと思います。

ゆりこ:今回のトラブルの「核」になる部分について私なりの見解をお話しします。

【ゆるっとトークをお届けしたのは……】
K-POPゆりこ
:韓国芸能&カルチャーについて書いたり喋ったりする「韓国エンタメウォッチャー」。2000年代からK-POPを愛聴するM世代。編集者として働いた後、ソウル生活を経験。

編集担当・矢野:All Aboutでエンタメやメンズファッション記事を担当するZ世代の若手編集者。物心ついた頃からK-POPリスナーなONCE(TWICEファン)。

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