5:監督がMVを手掛けた『Virtual Insanity』に通じている?
ジョナサン・グレイザーは、ジャミロクワイによる楽曲『Virtual Insanity』のミュージックビデオの監督としても知られています。その『Virtual Insanity』の歌詞は、タイトル通り「(実在はしていない)実質的な狂気」を歌っており、世界にある問題をうのみにしたり、周りに流されたりすることへ警鐘を鳴らしているとも解釈できます。
それが『関心領域』での問題提起に近いというのも、とても興味深いのです。
6:合わせて見てほしい映画を1つだけ推すなら?
最初に掲げた通り、『関心領域』は予習をあまり必要としない映画ともいえますが、もちろんナチス、ホロコースト、アウシュビッツに関連した書籍や映画に触れておけば、より深く内容を理解できますし、今回の映画で直接描かれていないことにも目を向けるきっかけにもなるでしょう。例えば、ユダヤ人絶滅政策を決定した「バンゼー会議」を描く『ヒトラーのための虐殺会議』、現代のアウシュビッツを観光する「ダークツーリズム」の様子を淡々と映した『アウステルリッツ』、約9時間半にわたるホロコーストのドキュメンタリー『SHOAH ショア』もありますが、筆者が1つだけ合わせて見てほしい映画をあげるのであれば、『サウルの息子』を推します。
こちらは、ユダヤ人の死体処理を行う特殊部隊「ゾンダーコマンド」の男が、息子と思しき少年の遺体を葬るために奔走するという内容。アウシュビッツの中の「地獄巡り」を「主観」に近いカメラで追うことができる、ちょうど『関心領域』とはまったく異なる視点で描かれた作品である一方、「何かを見ないようにしている」主人公の心理はどこか似通っているからです。合わせて見れば、やはりより「自分ごと」として、提示された問題について考えられるでしょう。
この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。