第96回アカデミー賞で国際長編映画賞と音響賞を受賞した『関心領域』を見る前の6つの「心構え」を解説しましょう。※画像出典:(C)Two Wolves Films Limited, Extreme Emotions BIS Limited, Soft Money LLC and Channel Four Television Corporation 2023. All Rights Reserved.
それぞれの部屋や庭を登場人物が自由に移動しているような「連続性」が見えるのも、この手法ならではでしょう。
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また、『関心領域』と『オッペンハイマー』は、どちらも「歴史的な大量虐殺の中心にいた人物(の罪)を描く」ことが共通しています。しかし、前者はこの手法により客観的視点を、後者は「主観」を描いているというのも興味深いところ。『オッペンハイマー』は登場人物の表情を大きく映した場面が多く、それでこそ主人公の内面を鋭く深く表現しているのですから。
3:主人公夫婦は「はっきりと実在の人物」に
主人公である、一家の大黒柱かつ、アウシュビッツ所長のルドルフ・フェルディナント・ヘスは実在の人物です(ルドルフ・ヘスとも略されますが、ナチス党副総統であるルドルフ・ヴァルター・リヒャルト・ヘスとは別人であることに注意)。
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そのルドルフ・ヘスと同等に重要な描かれ方をされるのが、その妻のヘートヴィヒ。ジョナサン・グレイザー監督は脚本を書き始める前に2年間にわたって調査をしており、前述した「転勤への文句」も庭師の証言に実際にあったものなのだとか。
ジョナサン・グレイザー監督は本作について「ある意味で我々を描いた物語でもある」「我々が最も恐れているのは、自分たちが彼らになってしまうかもしれないということだと思います。彼らも人間だったのですから」と語っています。
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これもまた背筋の凍るような指摘です。本作の「アウシュビッツの隣で幸せに暮らす家族を描いている」というシチュエーションだけ聞けば、「自分が生まれる前の時代の、遠い国での関係のない話」と思われるかもしれませんが、「自分の生活圏または隣にある問題から目を背けている」「その場所の良い面だけを都合よく享受しようとしている」と言い換えれば、現代の日本でも他人事だと思えない、普遍的な物語に見えてこないでしょうか。
そもそも、主人公のルドルフ・ヘスは自分と家族を守るために仕事をしている、妻のヘートヴィヒや子どもたちはそのおかげで平和で理想的な暮らしを得ているともいえます。そうした恩恵ばかりを重視して、「他の犠牲をいとわない」という心理が働いてしまうというのも、「人間」の恐ろしいところなのだと思えます。
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この映画を見れば、物理的な距離としての身近な問題でなくても、社会全体に影響を及ぼす問題に目を向けたり、タイトル通りに自身の「関心領域」がどこまであるのかと考えるきっかけにもなるでしょう。ジョナサン・グレイザー監督はアカデミー賞の授賞式にてイスラエルの攻撃、ガザ地区への侵攻についても言及しており、それもまた現代の問題なのだと強く思わされます。