コタツ記事は本当に「悪」なのか。国内外メディアが抱える現実と、コタツ記事を増幅させる「正体」とは

『週刊文春』(文藝春秋)が3週にわたって報じているLINEヤフー社に関する記事で、メディアの「コタツ記事」に関する内容が話題となっている。海外のメディアも含め、コタツ記事の存在意義やあり方について考察する。(サムネイル画像出典:Koshiro K / Shutterstock.com)

コタツ記事を増幅させているのは、ほかならぬ「消費者」

そもそも論だが、コタツ記事は読む人がいるから成り立っている。消費者がいて、クリックする人がたくさんいて、それがメディア側のアクセス数増加=収益につながっている。誰も読まなければ、ヤフーニュースだけでなく、どこのサイトでもコタツ記事を作らないし、掲載しないだろう。つまり、コタツ記事を生き延びさせているどころが、増幅させているのはほかならぬ、私たち消費者なのである。もちろん、コタツ記事に苦言を呈している人たちも同じだ。
 
ちなみにこれは、著名人の不倫などスキャンダル報道が「マスゴミ」として叩かれることもある『週刊文春』や、ほかのメディアの存在価値にも同じことが言える。人の興味をそそる話題だからこそ記事になり、売り上げにも反映される。そう、あくまでビジネスなのだ。
 
現在、ヤフーニュースは、記事を提供してくれるメディア企業にコンテンツ料を払っている。ただ、こんなことを言うと、メディア関係者からお叱りを受けるかもしれないが、ビジネスの観点から見れば、コタツ記事が多いと批判されるヤフーニュースが今では日本で最も多くの人にリーチできる日本一のキューレーションサイトであることを考慮すると、メディア企業が記事を掲載して宣伝してくれるヤフーニュースに対価を払うべきではないかという見方もできる。
 
事実、文春記事の中でコメントしている編集者は「仮に我々がヤフーへの配信を止めてもサイトの集客力の違いから、自社サイトに来てくれる読者数はせいぜいヤフーの10分の1程度。(中略)ヤフーに配信しておけば、自社サイトへの送客も見込めます(※)」と語っている。つまり、ヤフーが宣伝媒体になっているのではないかーー。だとすれば、そこに対価が発生してもおかしくない。
 
もちろんそうなると多くの対価を払ったメディア側が情報操作などをできてしまう懸念や不正なども出てくる可能性が高いが、多くの人にリーチできるマスメディアはずっと、多くの人に情報を伝えたい人たちから多額の広告費を受け取ってきた。もちろんヤフーニュース側はメディアが低コストで提供してくれるコンテンツを使って集客し、広告収入を得ているのも分かっている。「ヤフーニュースに利用料を払え」というのはさすがに言い過ぎかもしれないが、少なくとも持ちつ持たれつで成り立っていることは間違いない。
 
筆者はこれまで、日本やアメリカ、イギリスのメディア企業などで仕事をしてきた。その経験から見ると、コタツ記事が特段批判される理由はないと思う。少なくとも、公取委が心配するようなメディア全体の「質の低下」は心配しなくていいのではないだろうか。

※参考引用文献
『週刊文春 4月18日号』(文藝春秋)
 
この記事の筆者:山田 敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)。近著に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)がある。

X(旧Twitter): @yamadajour、公式YouTube「スパイチャンネル
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