コタツ記事は本当に「悪」なのか。国内外メディアが抱える現実と、コタツ記事を増幅させる「正体」とは

『週刊文春』(文藝春秋)が3週にわたって報じているLINEヤフー社に関する記事で、メディアの「コタツ記事」に関する内容が話題となっている。海外のメディアも含め、コタツ記事の存在意義やあり方について考察する。(サムネイル画像出典:Koshiro K / Shutterstock.com)

コタツ記事は「悪」なのか
コタツ記事は「悪」なのか(画像出典:Koshiro K / Shutterstock.com)
『週刊文春』(文藝春秋)が2024年4月11日号から「日韓総力取材・巨弾キャンペーン」と題して、3週にわたってLINEヤフー社についての記事を掲載した。第1弾は「LINEヤフーの暗部」として、筆者も以前詳しく解説したLINEアプリの問題について報じている。
 
第2弾(4月18日号)は「ヤフーニュース」の正体、第3弾(4月25日号)は、LINEヤフー社の親会社の1つであるソフトバンクについて記事だ。どれも、日本人の生活を支える「インフラ」企業の姿を文春スタイルで取り上げており、一読の価値がある。
 
その中でも、筆者は第2弾の記事で言及されていたヤフーニュースの「コタツ記事」に関する話題に目が留まった。というのも、かなり刺激的な言葉が書かれていたからだ。

引用すると、コタツ記事のせいで「公取委担当者が指摘する『消費者(読者)が質の高いニュースを読むことができなくなる』事態が生じつつあるのだ(※)」という。
 
公取委(公正取引委員会)がコタツ記事の批判をしているというのである。確かにこれまでも、コタツ記事についてはニュースやSNSのコメントなどで叩かれてきたのは承知している。ただ、コタツ記事というのは、よってたかって批判するほどの「悪」なのだろうか。

そもそも、コタツ記事とは

そもそも、コタツ記事とは何か。デジタル大辞泉によれば、「独自の調査や取材を行わず、他の媒体やSNS上の情報などのみで構成した記事。[補説]主に、閲覧者数を増やす目的で作成されるインターネット上の記事」だという。
 
辞典の定義を見ると、コタツ記事の何が問題なのかは分からない。なぜなら、この定義に沿えば世の中のニュースは、大手メディアのものも含めコタツ記事であふれかえっているからだ。
 
コタツ記事の内容は、インターネット上にある情報や欧米メディア記事を引用するだけで、誰にも取材をせず構成される。芸能などエンタメ系の記事も、テレビ番組やSNSでの発言を引用しただけの記事だらけだ。国際ニュースはコタツ記事の割合がかなり多いし、現地に支局をもっているメディア企業であっても、日本にいながらインターネット上の情報だけで書けてしまうような記事はよく目にする。
 
忘れてはいけないのが、日本のメディアが営利企業であることだ。全てのニュースに人を派遣したり関係者をたどって取材をしたりすることは現実的に不可能で、取材費も湯水のようにあるわけではない。当然ながら企業にはコスト意識があるし、ボランティアでやっているわけではない。
 
ある大手紙の記者は、最近筆者に「コタツ記事は、うちでも上からの指示で記者が何本かやらされている」と愚痴っていた。Webの記事ではクリック数で広告収入などにもつながるので、その手の記事で閲覧数(サイトへのアクセス数)の増加を狙っているという。ただコタツ記事が、インターネットからの寄せ集め記事であり、それが閲覧数を増やす目的であっても、メディアも商売であることを考えれば文句は言えない。

海外メディアのコタツ記事事情

また、このコタツ記事というのは日本特有のものでもない。アメリカ、イギリス、インドなど数多くのメディアが存在する国を見渡しても、インターネット上のメディアには日本で言うところのコタツ記事があふれかえっている。事実、筆者が日常的にチェックしているアメリカ版ヤフーニュースやGoogleニュース、またその他のニュース系サイトでも、数時間前に放送されたテレビ番組でのゲストの発言内容が記事になっていたり、SNSの投稿などが数多く記事になっていたりする。
 
世の中は、国際ニュースでも経済ニュースでも、パソコンの前に座って調べるだけで書けてしまうコタツ記事だらけなのである。冒頭に紹介した『週刊文春』の記事にあった、日本の公取委が指摘する「コタツ記事のせいで質の高いニュースを読むことができなくなる事態」というのも感じない。
 
例えばアメリカでは、日本をはじめ世界中のメディアがコタツ記事の引用元にしているような、良質なジャーナリズムを提供しているメディアはいくつも存在している。コタツ記事のせいで「質が高い記事が読めなくなる」というのは飛躍しすぎていると言わざるを得ない。
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コタツ記事を増幅させている「正体」は?
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