ヒナタカの雑食系映画論 第89回

見事なバランスに仕上がった『シンデレラ』を筆頭に、ディズニー実写映画の「ポリコレ」について考える

金曜ロードショーで放送される実写映画版『シンデレラ』。理想的なリメイクとしてのバランスが取れていた本作を筆頭に、ディズニーの実写映画8作品から、ネガティブな意味で取り沙汰されやすい「ポリコレ」について考えてみます。(サムネイル画像出典:(C)2015 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.)

5:『クルエラ』は悪役を主人公にしつつ独自の魅力を打ち出した快作に


1996年と2000年にも実写映画版が公開された『101匹わんちゃん』の実写リメイクでありつつ、悪役のクルエラを主人公とした2021年の作品。重要なのは、女性1人と男性2人が友情を超えた家族になる物語であり、その関係が「恋愛ではない」こと。アウトローな家族の生き様はすがすがしく、イケイケなファッションと音楽、キレキレの演出で最後まで楽しく、「ざまぁ!」と思えるスカッと爽やかな展開が待ち受けているのもたまりません。

同じく悪役を主人公に据えた実写映画には、2014年と2019年制作の『マレフィセント』もありましたが、こちらはいわゆる「ツンデレ」なマレフィセントのキャラクターが楽しい反面、王子や3人の妖精、実の母への扱いには批判も多くありました。対して今回の『クルエラ』はキャラクターに愛情を示しつつ、ピカレスク・ロマン的な物語に仕立てることで、独自の魅力を打ち出した革新的な内容に仕上げていたと思います。

6:『ピノキオ』はアップデートが表面的すぎる問題も


2022年の実写映画版『ピノキオ』の評価は賛否両論、というよりも批判的な意見も目立っていました。炎上をしてしまったのは、オリジナル版のブルー・フェアリーがブロンドヘアの白人女性だったのに対し、今回はスキンヘッドの黒人女性(演じているのはナイジェリア人を両親に持つイギリスの俳優のシンシア・エリヴォ)であること。オリジナル版を愛する人から「イメージと違う」という拒否反応が生まれてしまう心理は理解できるものの、度を越して苛烈な批判も見かけました。

肝心の内容は、個人的には現代的なアップデートがやや表面的なものに収まってしまっていると感じました。「インフルエンサー」という現代的な言葉を使ったり、少女との交流の物語が付け加えられたり、クジラがファンタジーのモンスターの造形になっているなど、オリジナル版からの変更点がほとんど物語に影響を及ぼさないことが気になりました。ラストシーンでは、ナレーションで「多様な解釈を促している」ようで、映像面では「解釈を限定してしまっている」演出がなされているようなチグハグさも感じます。

2022年同年にアカデミー長編アニメーション賞受賞を受賞した『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』と比べられてしまったことも、評価が芳しくなかった原因の1つかもしれません。とはいえ、序盤のゼペットじいさんの住まいの美術や、いい意味で不道徳な出来事に満ちあふれている遊園地の描写など、実写ならではの魅力も大いにあります。
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『リトル・マーメイド』はなぜここまで批判の声も上がったのか
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