今後も児童数は減っていきますが、東京都に限ればむしろ増えていて、そのことが首都圏の中学入試に今後どう影響するのか、業界の人たちの間では意見が分かれているところです。
中学入試を取り巻く状況に変化
少しでも偏差値の高い学校を目指して、最難関校に多数の合格実績を出す大手受験塾に通い、ガッツリ受験に取り組む層は依然として存在します。これらの人たちの中には、大手塾だけで完結せず、そこの授業についていくために、さらに個別塾や家庭教師も利用する例も多いのです。実際港区在住で大手塾に通い、今年御三家の1つに合格をした子を持つ親は、「その教室では特に6年生になってから併用は当たり前だった」と明かします。もちろん多くの子は、1つの塾で完結しているのですが、裾野の広がりとともに、昨年度は中堅校といわれる学校の受験者数が増えて、なかなか合格がもらえないという状況が生まれました。
あるベテラン塾講師は、「複数回受験を行う学校が増えたため、日程によって難易度も異なり、これまでなら合格できた子が合格できず、読みにくくなった」と言います。実際、同じ学校を受け続けて全敗になったケース、偏差値を下げてもなかなか合格が出ず4日目でやっと合格したというケースも多かったそうです。
そんな中、前回の記事でも触れたように、中学受験への意識は多様化しています。
偏差値重視ではなく、わが子にあった学校を選びたいという層や、公立中高一貫校との併願や新タイプ入試も活用して中学受験をする層、志望校に行けなかったら公立でいいと割り切っているライトな受験をする層など、受験に対する意識も多様になっているのです。このように裾野が広がっていることが、受験者数を増やしている要因ともいえるでしょう。
実際、筆者の周囲では、塾には通っているけれど、偏差値重視ではなくわが子にあった学校を選びたいという人も多く、その中で2科目受験と新タイプ入試といわれる受験を併用し、新タイプ入試で合格をもらったというケースがありました。
そこで今回は、新タイプ入試について深掘りしていきしましょう。
新タイプ入試ってどんなことをするの?
学校が独自に設計している新タイプ入試には、さまざまな種類があります。そもそもの始まりは、公立中高一貫校ができ、適性検査型といわれる入試が出現したことでした。適性検査は、国立や私立の中学校が実施する教科別の学力試験とは大きく異なります。国語と社会を組み合わせた問題、算数と理科を組み合わせた問題など、教科横断型の問題が出題され、内容も知識そのものではなく、知識をどう活用するかが求められる思考力を要する問題になっています。また自分の意見や思いをまとめる作文や面接を課す学校もあります。
というのも、学校教育法施行規則において「公立の中等教育学校については、入学者選抜に学力検査を行わないものとする」と定められているからです。
適性検査で測られる力は、思考力や判断力、表現力など小学校で身に付けた総合的な力や、入学後の6年間の学習への意欲や適応力だといわれていますが、これは学習指導要領でうたわれている学力観に応じたものです。
公立で私学並みの教育が受けられる、受験塾に行かなくてもいいということで、倍率7~8倍の人気となりました。その新しい受験者層を取り込もうと生まれたのが、私立中学の適性検査型入試でした。
私立中学でこの入試を実施する学校は、10年前の15校から150校に広がり、公立中高一貫校と私立中学の併願をする受験生も増えています。
10年前、いち早く適性検査型入試を実施した私立中学の取材に行くと、この入試で入ってくる生徒の入学後の伸びしろの大きさをよく聞きました。適性検査で測られる思考力、判断力、表現力を兼ね備えている生徒だからということでしょう。
その後、私立中学では思考力を問う独自の入試や、グループワーク型入試、得意なことをプレゼンする自己アピール入試、AL(アクティブラーニングの略)型入試、PBL(問題解決)型入試、レゴブロックを使って考えるものづくり入試、プログラミング入試など、さまざまなスタイルの入試が出現しています。これらを総称して「新タイプ入試」と呼んでいるのです。
英語入試の実施校は142校に
さらに、小学校で英語が教科化されたこともあり、ここ数年で急速に増えているのが、英語入試です。こちらも実施校は2014年の15校から10年で142校へと拡大。英検(実用英語技能検定)などのスコアによる優遇制度を設けている学校も増えています。
優遇対象となる英検の取得級は、英検5級以上が22%、4級以上が26%、3級以上が35%となっています。小さい頃から英語を学んでいる子どもも増えていますが、英検を取得しているとアドバンテージになります。
このような機会を活用することで、習い事などをやりつつ、得意を生かして中学入試に挑戦することができるようになってきたのです。