4:『マンティコア 怪物』(4月19日公開)
「人間の心の闇のタブーに踏み込んだ、衝撃のアンチモラル・ロマンス」と銘打たれたスペイン映画で、客観的にはジャンルはホラーではないでしょう。しかし、筆者にとっては、とてつもなく恐ろしい作品でした。
隣人の少年を火事から救ったことをきっかけにパニック発作を発症した青年が、聡明な女性に惹かれながらも、やがてタイトルさながらの「マンティコア(怪物)」を生み出してしまう……という物語であり、「では、そのマンティコアとは具体的に何か?」を解き明かすミステリーともいえます。
主人公がグロテスクな描写もあるゲームのデザイナーであるというのも重要な設定で、それをもって「現実では許されない犯罪や人ならざる行為であっても、創作物や想像で発散するのであれば問題ない」という提言もされています。しかし、それでも、自分や身近な誰かが少なからず心の奥底に持っている「何か」が表出してしまったとしたら……と考えると、劇中の恐怖は決して他人事ではありません。
会話劇が淡々と静かに展開する作品ですが、だからこそ結末に向けてあらゆる伏線が忍ばせられていると、注意して見ることをおすすめします。また、主人公が「日本オタク」であり、日本人であれば作り手の「偏愛」ぶりにニヤリとできますよ。
5:『キラー・ナマケモノ』(4月26日公開)
発想およびタイトルからすでにB級(またはC級)のモンスターパニックかつ、コメディ成分マシマシのホラー映画で、そういうのが好きな人にとっては超ストライクです、以上!
……で終わってもいいのですが、意外にも「地味な学生生活に焦りを感じていた女子大生が、SNSで(実は殺人鬼の)ナマケモノを利用してインフルエンサーぶる」流れから、現代的な過剰な承認欲求への風刺も込められており、(直接的な残酷描写がほとんどなくG指定だったりもするので)若い人にこそ見てほしい内容でした。
最大の魅力は、ナマケモノがものすごくかわいいこと。CGを使わず、アニマトロニクスのパペットによって動かされていたそうで、今の時代にアナログな技術で映画史上最高にかわいい殺人鬼(断言)を誕生させたことは皮肉抜きで称賛できます。あと、Sloth(ナマケモノ)とSlaughterhouse(大量殺人現場)を合わせた造語による原題「Slotherhouse」が何気に秀逸です。
「動きが遅いナマケモノがどうやって人を襲うねん」という誰もが思うツッコミどころが解消できているようなできていないような微妙さや、とある攻撃に対してのダメージがいい加減に思えたりと、まあまあ雑なところも散見された気もしますが、そういうところもキュートに感じられる心の広い人は存分に楽しめます。
6:『胸騒ぎ』(5月10日公開)
デンマーク・オランダ合作の作品で、休暇でイタリアへ旅行に出かけた家族が、オランダ人の夫妻とその息子と意気投合して彼らの家を訪問するものの、徐々に不気味な言動がエスカレートしていく様に恐怖を感じる……という、いい意味で不穏な空気に満ち満ちた内容です。
やっかいなのが、相手夫婦が一応は「おもてなし」をしているため、それをなかなか無下にはできない、「なんとか体裁を保って、この場は乗り切ろう」という心理が働くこと。ここまで極端ではなくとも、そのバツの悪さは誰もが身に覚えがあるのではないでしょうか。
品のいい表現ではないことを承知で言いますが、本作は後味が悪いという表現をとっくに超えて、「胸糞」という言葉がふさわしい内容です。ゆえに見る人をある程度は選ぶでしょうが、『ファニーゲーム』など、とことん胸糞な気分にさせてくれる映画を好む人には大推薦します。英題の「Speak No Evil」の意味が分かった瞬間も最悪の気分になれますよ(全部褒めています)。
この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。