ここでは、公開中&これから公開の春のホラー映画を一挙に紹介しましょう。いずれも、映画館で見てこそ、さらなる没入感と恐怖を味わえるはずです。
1:『オーメン:ザ・ファースト』(4月5日より公開中)
映画をあまり見ない人でも名前は知っているであろう、悪魔の子・ダミアンに翻弄(ほんろう)される人々の恐怖を描いた1976年のホラー映画『オーメン』シリーズの最新作です。
今回は「エピソードゼロ」であるうえに、「修道女になるためイタリアの教会にやってきた女性が、問題児扱いされていた少女と出会い、さらに恐ろしい陰謀を知る」という分かりやすい流れから、謎が謎を呼ぶミステリーとしてグイグイ興味を引くため、予備知識なく見ても問題なく楽しめます。 今回の恐怖の本質にあるのは、教会の陰謀の裏にある「伝統を重んじるあまり人ならざる行為をいとわなくなる」おぞましさ。さらに「望まない妊娠」「出産の強制」も苛烈に描かれており、それを持ってリプロダクティブ・ヘルスライツ(性や子どもを産むことに本人の意思が尊重されること)の重要性を訴えているともいえます。 原典の『オーメン』の根本的な恐怖はダミアン本人よりも、大人たちが彼を悪魔の子だと認識してこその「盲信的な言動や過剰な崇拝」や「信じていたことがおびやかされる不安」にあると思えました。今回もそれと同様の恐怖をしっかりと示しながらも、安易な予想を裏切るツイストを効かせ、さらにフェミニズムのメッセージも内包するという、前日譚およびリブートとしても、社会批評性を持たせたエンターテインメントとしても見事な作りになっていました。 ホラー映画が厳しい評価になりがちな日本でもSNSで称賛の声が相次ぎ、記事執筆時点で映画.comで3.4点、Filmarksで3.7点となかなかのスコアになっているのも納得です。ただ、PG12指定止まりとはとても思えない、かなりショッキングかつグロテスクなシーンがあるのでご注意を。『オーメン』を見ておくと、ブレナン神父というキャラクターが共通して登場しているほか、オマージュの数々に気づいてさらに楽しめますよ。
2:『インフィニティ・プール』(4月5日より公開中)
高級リゾート地の孤島で、とある罪を犯した主人公が「クローンを身代わりにできる」というルールを知り、その後におぞましい出来事が立て続けに起こる……という物語です。設定としてはSFではありつつも、全編で不条理なホラーとしての雰囲気が充満していて、クライムサスペンスの要素も備えた、先が気になるエンターテインメント性も高い内容になっていました。
最大の特徴はR18+指定当然の容赦のないエログロ描写。人によってはトラウマになってもおかしくない画もたっぷりあるので、ホラー映画に耐性があるという人も、ある程度の覚悟をもって挑んだほうがいいでしょう。もちろん見る人を選びますが、好んでこうした作品を見る人にとっては、刺激的かつ皮肉たっぷりの展開の数々のおかげで、最高の映画になる可能性もあります。
なお、監督のブランドン・クローネンバーグは、『ザ・フライ』や『ヴィデオドローム』などでカルト的な支持を得るデヴィッド・クローネンバーグ監督の息子。「肉体と精神の変容」の恐怖とグロテスクさなどの作風をしっかり父から受け継いでおり、今後もさらなる刺激的な作品が期待できます。
3:『ザ・タワー』(4月12日公開)
集合住宅で目を覚ますと、なぜか窓の外が真っ暗な闇に覆われており、その中に物体を投げ入れると消失、さらに体が触れるとその部分がきれいに切断され、脱出できなくなる……という限定空間を舞台としたフランス製のホラー映画です。
しかし、脱出に至るまでの過程を楽しむタイプの作品ではなく、知り合いや人種ごとの小さなグループを形成することによる対立や軋轢(あつれき)、現実世界にも存在する差別や偏見といった「人間の業と罪」を寓話として描く内容といっていいでしょう。2024年初頭に公開された『コンクリート・ユートピア』も思わせますが、そちらもよりも画が苛烈かつダウナーな雰囲気に満ちています。
正直、せっかくの特異な設定を生かしきれていない、賛否両論を間違いなく呼ぶ幕切れなど、もったいなく思う部分もありますが、この際限のない生き地獄を体感し、相対的に現実の問題を考えることには確かな意義があります。