令和ロマンの「テレビ出演を断っている」発言が物議。新世代のM-1王者がテレビ出演を重視しないワケとは

令和ロマンの高比良くるまさんが、「テレビ出演を基本的に断っている」と発言し大きな話題を集めています。この記事では、『M-1グランプリ』の王者とテレビの関係について、元テレビ局スタッフが考察を行っていきます。(サムネイル画像出典:M-1グランプリ公式Xより)

M-1王者のミルクボーイもキー局を離脱。関西の劇場重視に

さて、異端児のように扱われている令和ロマンより先に、テレビ重視ではない活動にシフトしたM-1王者もいます。2019年に『M-1グランプリ』で優勝したミルクボーイです。
 
関東に住んでいるとテレビで見かけることは少ないですが、現在の活動は関西重視で劇場への出演でも大活躍。一部のネットニュースで「消えたお笑いコンビ」として取り上げられたミルクボーイですが、実は関西でしっかり活躍しているコンビです。

ミルクボーイはテレビ出演を重視しないのではなく、東京を中心としたキー局のテレビ出演を無理にしなくてもしっかり活躍できる道筋を作り上げました。今回のくるまさんの発言もそうですが、活躍する芸人、特に漫才師たちが「テレビ」に主軸を置くのではなく、自分たちのやりやすい形でお笑いをファンに届ける方法を常に模索していることが分かります。

これまでは、多くの国民が見ていたテレビ(特に東京に本社があるキー局)に出ることこそ、芸人として売れた証拠になりました。しかし、現在ではエンタメの領域が広がり、テレビだけが全てではなくなっています。そんな中で、令和ロマンならばYouTube、ミルクボーイなら劇場と軸足を置く場所をいろいろと考え、活動しやすい場面を自分たちで増やす努力をしているのだと思います。

芸人の高齢化に伴いテレビの「オワコン」が加速?

もともとテレビ局にいた筆者としてはさびしい限りですが、「テレビにたくさん出れば売れた!」という時代ではなくなり始めています。とはいえ、影響力が高い媒体としてテレビが君臨しているのも事実。だからこそ、くるまさんが言うように自分たちに合った番組に出演し、その上で新しいチャレンジをすることが、これから活躍する芸人には必要になっていくのだと思います。

テレビ業界で働くクリエイターたちは、今回のくるまさんの発言がいろいろと考え直すきっかけになるのではないでしょうか? 現在、松本人志さんが性加害疑惑で休業している中、仕事を増やしているのは千鳥です。千鳥は2人とも40代中盤。かつて、ダウンタウン、ナインティナインは早くから注目され、基盤を作り上げてきました。

しかしどうでしょう、現在20代はおろか、30代でブレークしている芸人は霜降り明星くらい。その霜降り明星ですら、『新しいカギ』(フジテレビ系)メンバーとして、『FNS27時間テレビ2024』(同)の総合司会を務めるものの、かつてのダウンタウンやナインティナインのような国民的なブレークはまだ先の話です。
 
キー局では若手芸人を起用した実験的な番組が作られていますが、成功しているものがなかなかありません。主軸となっているのは安定感のあるベテランの番組ばかり。このままの状況が続けば、芸人の高齢化が進み続け、まさにテレビはシニアしか見ない「オワコン」になる可能性が大です。

テレビ業界が今後のあり方を考えるきっかけに

錦鯉、ウエストランドも番組出演本数こそ多いものの、自身で冠番組をほとんど持てていない現状。M-1王者ですらそんな状況なので、くるまさんが「上の世代」がテレビを作っていると語るのもうなずけます。このまま、敷かれたレールに沿って、「M-1王者だからテレビ番組にとにかく出ろ!」という方針に、疑問をいだいたことが安易に想像できます。

正直に言えば、テレビ業界に変革をどう起こすべきなのかは、全く検討もつきません。ただ、今回のくるまさんのテレビに関する考え方は、「オワコン」にならないための、かすかな希望の光なのではないかと考えてしまいます。

「テレビ出演を基本的に断っている」と語ったくるまさんの本心は、動画を何度見ても分かりません。だからこそ、今回のテレビに対するM-1王者としての考えを、芸人だけでなくテレビ業界のクリエイターもしっかり考え、幅広い視聴者が喜ぶコンテンツ作りの体制を練り直す必要があると感じました。そのくらいに、今回のくるまさんの発言は、テレビ業界にとって大きなインパクトがあるものでした。くるまさんが投げかけたテレビと芸人の関わり方に対して、「テレビ」を支えてきた全ての人たちがどう反応するのか、見守っていきたいと思います。
最初から読む
 

この記事の筆者:ゆるま 小林

長年にわたってテレビ局でバラエティ番組、情報番組などを制作。その後、フリーランスの編集・ライターに転身。芸能情報に精通し、週刊誌、ネットニュースでテレビや芸能人に関するコラムなどを執筆。編集プロダクション「ゆるま」を立ち上げる。

Lineで送る Facebookでシェア
はてなブックマークに追加

編集部が選ぶおすすめ記事

注目の連載

  • 「港区女子」というビジネスキャリア

    港区女子は、なぜここまで嫌われる? 自活する女性から「おごられ」「パパ活」の代名詞になった変遷

  • ヒナタカの雑食系映画論

    草なぎ剛主演映画『碁盤斬り』が最高傑作になった7つの理由。『孤狼の血』白石和彌監督との好相性

  • 世界を知れば日本が見える

    もはや「素晴らしいニッポン」は建前か。インバウンド急拡大の今、外国人に聞いた「日本の嫌いなところ」

  • 海外から眺めてみたら! 不思議大国ジャパン

    外国人観光客向け「二重価格」は海外にも存在するが……在欧日本人が経験した「三重価格」の塩対応