本作の監督である藤井道人は1986年生まれで現在37歳と若く、話題作を続々と世に送り届けており、それぞれが強く記憶に残る力作ぞろい。現在の日本映画界の第一人者であり、すでに巨匠の風格すら漂うほどです。
ここでは、代表的な藤井道人監督の映画『新聞記者』『ヤクザと家族 The Family』『余命10年』『最後まで行く』を振り返り、最新作『パレード』の魅力についても記していきましょう。いずれもジャンルは異なるものの、そこには共通する作家性と魅力があるのです。
1:『新聞記者』 (2019年)
同名ノンフィクション小説を原案にした社会派サスペンス映画で、後に同じく藤井道人監督によるNetflixオリジナルのドラマシリーズも制作されました。権力の暗部に気付き葛藤するエリート官僚と、真実を求める新聞記者それぞれが奔走する姿はハラハラするとともに、人間くさくもあり感情移入しやすいものになっていました。現実の問題を元にした政権批判が込められながらも、実名を出さないフィクションでもあり、そのことで権力に屈しない精神の物語としての普遍性を強めているともいえます。松坂桃李とシム・ウンギョンの熱演、そして受け手に想像を働かせるラストシーンを忘れることができません。
2:『ヤクザと家族 The Family』(2021年)
社会での立場が変わっていくヤクザの姿を、1999年、2005年、2019年という3つの時代で見せていくドラマです。主に描かれるのは社会から容赦なく排除されていくヤクザたちの悲哀。反社会的な立場だと分かっていつつも、そこに身を置かざるを得ない状況や、さらにはヤクザをやめてもなおも精神的に追い詰められる姿は、どうしても同情してしまうし、心から幸福を願いたくもなります。綾野剛のやさぐれた演技が神がかっているし、危うさと優しさを同居させる磯村勇斗の表情はずっと脳裏に焼きついてしまうほどでした。その20年にわたる時間の「重み」を感じさせる俳優それぞれの熱演と、残酷な時間の流れの中で悲劇を経たとしても、なおも残る希望の物語を見届けてほしいです。