世界を知れば日本が見える 第41回

アメリカの「#MeToo」運動が抱える「負の側面」とは? 発足から7年の現状、浮き彫りになる日本の遅れ

2017年にアメリカで発足した「#MeToo」運動。現在のアメリカにおいて、どのように受容され、社会変革をもたらしているのだろうか。また、「#MeToo」運動が抱える負の側面についても考察する。(サムネイル画像出典:Sundry Photography / Shutterstock.com)

#MeToo運動が抱える「負の側面」

こうしたアメリカの状況を見て、日本では、#MeTooの発祥であるアメリカの#MeToo運動は日本と比べて進んでいると感じる人も少なくないだろう。ただその一方で、アメリカ社会の空気の変化には、少し考えされられる側面もある。
 
例えば、夫婦間の問題だ。2024年1月にコロラド州の新聞の投稿欄でこんな記事を発見した。「#MeToo以降、夫が性交渉をしない」という投稿だ。今は夫婦間でも性的暴行になる可能性があるので、夫は妻に積極的に性交渉を求められなくなっており、投稿者の妻がその状況に困っているという。#MeToo以降、夫婦の関係がギクシャクするようになっているらしい。
 
もちろん夫婦関係はいろいろな要素が背景に絡み合っているだろうから適当なことは言えないが、ただ#MeTooにはこうした負の側面もあるということだろう。
 
#MeToo運動が今より盛り上がっていたころには、こんな記事もあった。ワシントンポスト紙によれば、2018年に大手半導体メーカーのインテルのCEOが、「社内恋愛」をしたことで辞任することになったと発表した。同社には社内恋愛禁止という方針が設けられており、それに違反したためだった。
 
記事では、「#MeToo時代になった今、より多くの企業がインテルと同様のポリシーを導入したり、導入するかどうか検証するよう弁護士に依頼している。雇用法の専門家によると、セクハラのケースが次々と報告される中で、企業はリスクや、増える社内調査などに対して神経質になっている」という。

時代の変化についていけない、日本の性加害報道の当事者たち

事実、#MeToo以降、企業などはこうした方針を強化している。「社内恋愛くらい自由でいいじゃないか!」と声を上げるつもりはないが、少なくとも、#MeTooの影響でこれまでのような男女間の関係にはリスクがあるという社会の雰囲気が生まれているのは確かだ。性的な言動の「境界線」が分かりにくくなってきていると見る向きもあるだろう。
 
それでもアメリカのように、性的暴行やセクハラが減っているのなら、#MeToo運動は効果があったと言えるし、人類の歴史を変えた重要な運動だったと言っていいだろう。
 
もっとも日本では先日、映画監督の立場を利用して過去に女性俳優らに対して性的暴行を加えていた事件が摘発されたばかりだ。また岐阜県の74歳の町長が99件のセクハラを理由に辞任したり、少し前には麻生太郎副総理の上川陽子外務大臣に対して外見を揶揄(やゆ)するような発言もあったが、こういう人たちは、アメリカなどから始まった時代の変化にもう付いていけていないということだろう。
 
この記事の筆者:山田 敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)。近著に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)がある。

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