世界を知れば日本が見える 第41回

アメリカの「#MeToo」運動が抱える「負の側面」とは? 発足から7年の現状、浮き彫りになる日本の遅れ

2017年にアメリカで発足した「#MeToo」運動。現在のアメリカにおいて、どのように受容され、社会変革をもたらしているのだろうか。また、「#MeToo」運動が抱える負の側面についても考察する。(サムネイル画像出典:Sundry Photography / Shutterstock.com)

学術界や企業への影響も大きく、社会現象に

学術界では、カリフォルニア大学の関係者がセクハラで更迭されたり、性的虐待容疑で有罪判決を受けた富豪ジェフリー・エプスタインが国内の名門大学に多額の寄付をしており、その寄付に関与した大学関係者らが職を失うケースもあった。
 
アメリカの女子大学協会の調査では、国内の学生のうち11%以上が過去に強姦や性的暴行を受けたことがあると報告しているが、その中で被害を受けた際に学校などに報告した学生(18〜24歳)の割合は、たったの20%だったという。教育現場でも声を上げられない環境があり、#MeToo運動の対象になっていた。
 
メディアや一般企業も取り沙汰された。ケーブル局CNNの有名司会者がセクハラで辞任するケースがあったり、#MeTooが最も勢いのあった2018年までの1年半で、分かっているだけで、アメリカの企業などではエグゼクティブなど400人以上が性的に不適切な行動を糾弾され、そのうちの190人が解雇されたという統計もある。
 
こうしたニュースが広く報じられ、#MeTooというハッシュタグを付けSNSで拡散されるなどをした結果、アメリカ国内では人々がこれまで以上に性的な言動について非常に慎重に向き合うようになっている。

現在は、法整備によって性的被害の環境変化に対応

現在では被害者(女性だけでなく男性の場合もある)が、これまで以上に声を上げられるようになっており、それは人権的にも評価されるべきだろう。事実、アメリカの雇用機会均等委員会 (EEOC) に提出されたセクハラの申し立ては、2017年の6696件から2019年までの7514件で12%ほど増加している(その後はコロナ禍で比較できず)。
 
ハリウッドでは以前のように女性俳優たちが#MeTooのハッシュタグを使う様子はあまりないが、ハリウッド界隈では2023年、性的虐待などを経験したと答えた人が前年比で33.7%も減少したと報告されている。MeToo運動の成果が出ているということだろう。
 
セクハラについては、一般企業でも研修が増えている。アメリカの連邦議会では、#MeToo運動を受けて、2022年に「性的暴力・セクハラ強制仲裁禁止法」を可決、ジョー・バイデン大統領が署名をして法律が成立した。この法律は、会社で上司や同僚に対する訴訟を禁じる合意をしていても、性的暴行やセクハラに対して裁判所に申し立てを可能にするものだ。
 
また今、#MeToo運動で最も注目されている問題の1つが、企業などの秘密保持契約(NDA)だ。NDAは従業員や関係者に業務内容を漏らさないように約束させる契約で、それにサインしていると従業員がセクハラの告発をすれば名誉毀損(きそん)になる可能性がある。
 
そこでニューヨーク州などでは、セクハラを通報した従業員を保護する州法を制定している。またオレゴン州ではそうした秘密保持契約をセクハラなどの問題では不問にする法律を制定。このような法整備などで、#MeToo運動によって生まれた性的被害の環境変化に対応している。
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#MeToo運動が抱える「負の側面」
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