アカデミー賞11部門ノミネート、そしてR18+指定
そして、第96回アカデミー賞では作品賞、監督賞、主演女優賞、助演男優賞、撮影賞など11部門にノミネート。13部門にノミネートし、3月29日に日本公開も決定した『オッペンハイマー』に次ぐ、最多受賞の有力候補となっています。筆者個人としても、この『哀れなるものたち』は早くも2024年のベスト候補。アバンギャルドな内容でありつつも、衣装や音楽など全方位的に完成度が高く、現代に作られた意義も大きく、何よりエンターテインメントとしてものすごく面白いことを称賛したいです。
ただし、注意していただきたいのは、極めて刺激の強い性愛描写がみられるためにR18+指定がされているということ。「脳みそがはっきり見える」かたちでグロテスクなシーンもありますし、「18禁が大納得できる内容」であることを前提にして見に行くことを、何よりもおすすめします。映画『タイタニック』や『バービー』を連想させる理由も含め、さらなる魅力を紹介しておきましょう。
『フランケンシュタイン』の発展形のようなあらすじ
あらすじは「女性が世界を自分の目で見るべくヨーロッパ大陸横断の旅に出る」という、極めてシンプルといっていいもの。しかし、主人公・ベラの設定が奇抜です。彼女は入水自殺を図っていたものの、エキセントリックな天才科学者の手により蘇生します。その方法は、「自身がみごもっていた胎児の脳の移植」というとんでもないものだったのです。 この流れはゴシック小説および映画『フランケンシュタイン(の怪物)』のパロディ、またはその発展形です。『フランケンシュタイン』で怪物は生みの親である博士に襲いかかるのですが、この『哀れなるものたち』では復讐(ふくしゅう)などではなく、ただ自由奔放な旅に出ようとするのですから。主人公ではなく、博士(天才科学者)のほうの顔に縫い合わせた傷跡があるのも『フランケンシュタイン』を意識しているのでしょう。そして、「大人の体を持つ」ものの「頭は子ども」の女性を全身全霊で体現したエマ・ストーンの素晴らしさは筆舌に尽くし難いものがあります。過激な性描写はもとより、初めこそ制御不能の気まぐれさを持つ子どもに思えたものの、とあるショッキングな事実を知ってからの、主体的な意志を持つ女性へと成長していく様をも、見事に表現していたのですから。
ちなみに、『フランケンシュタイン』の作者であるメアリー・シェリーは、互いの才能に惹かれあった男性と駆け落ちをしており、それが後述もする『哀れなるものたち』における男性と共に旅をする物語にリンクしている(あるいは相反している)ようにも思えます。そのメアリー・シェリーの伝記映画『メアリーの総て』を併せて見てみるのもいいでしょう。
さらに、そのメアリー・シェリーを主人公とし、女性たちの連帯をアクション活劇も交えて描いた日本の漫画作品『黒博物館 三日月よ、怪物と踊れ』(講談社)もとてつもなく面白いので、こちらもおすすめしておきます。