世界を知れば日本が見える 第39回

【台湾総統選挙を分かりやすく解説】 日本にとっても重要な選挙の行方、2024年の国際情勢はどうなる?

4年に1度の「台湾総統選挙」の投票日が迫っている。日本の今後にも影響する台湾の政治について、歴史の成り立ちや勢力のある政党など、基本的なところから分かりやすく解説する。

台湾の総統選挙、与党(民進党)の候補者は?

そんな台湾が、4年に1度の総統選挙を行うのである。
 
台湾では今、2つの大きな勢力が政治的に争っている。1つは現在の蔡英文(さい・えいぶん)総統が率いる親米の民進党。それに対抗するのが、親中国の国民党だ。
 
こう見ると、「あれ?」と思う人がいるかもしれない。もともと中国共産党と戦って敗れて台湾に逃れた国民党が、今ではなぜか親中国になっているからだ。その理由は、もともと台湾で与党だった国民党が2020年に選挙で敗れて野党に転じてから、復権を目指すために親中に変わっていったためである。
 
頼清徳
民進党の頼清徳(らい・せいとく)氏(出典:jamesonwu1972 / Shutterstock.com)
今回の総統選では、民進党からは副総統だった頼清徳(らい・せいとく)氏が立候補している。もともと医師である頼氏は、中国とは「敵にはなりたくない」とし、「中国が民主主義と自由を謳歌(おうか)する姿を見たい」と、皮肉たっぷりに中国をけん制。さらに「1つの中国という古い道に後戻りはしない」とも主張している。

中国がそんな頼氏を警戒しているのは言うまでもない。だが中国が同様に敵視しているのが、元駐米代表の副総統候補の蕭美琴(しょう・びきん)氏だ。日本の兵庫県神戸市で台湾人の父親とアメリカ人の母親のもとに生まれた蕭氏は、アメリカなどで教育を受け、中国語、台湾語、英語、日本語も話せる国際派である。かつて民進党幹部として福岡県で行われた国際会議で、出席していた在福岡の中国総領事と口げんかをした逸話も残っている。

野党(国民党、民衆党)の票は“分散”される見通し

国民党の侯友宜
国民党の侯友宜(こう・ゆうぎ)氏(出典:jamesonwu1972 / Shutterstock.com)
この民進党候補者に対抗するのが、国民党の侯友宜(こう・ゆうぎ)氏だ。内政部警政署長(日本でいえば、警察庁長官)を務めたこともある候氏は、現在、新北市の市長で、親中派だ。候氏と共に出馬している副総統候補は、有名な政治コメンテーターの趙少康(ちょう・しょうこう)氏。候氏は総統選に勝利すれば、「私の任期中は統一問題には触れない」としながらも「中国との対話を拡大させる」と語っており、中国に近づくと見られている。
 
民衆党の柯文哲(か・ぶんてつ)氏
民衆党の柯文哲(か・ぶんてつ)氏
さらに今回、もう1人、有力候補者がいる。第3の党である野党・民衆党の柯文哲(か・ぶんてつ)氏だ。有名外科医だった柯氏は、民衆党が、嫌中と親中の間の選択肢になると主張している。また、著名なビジネスマンの呉欣盈(ご・きんえい)氏も副総統候補として出馬している。
 
今回の選挙では、与党である民進党候補と戦う野党側の候補の数を絞ることで、民進党と対抗する野党側の勢力のー本化が図られた。そうしないと、民進党支持者以外の票が分散されてしまい、民進党に有利に働くからだ。だが結局、3候補が総統選に出馬することになり、野党側の票が割れることになりそうだ。

選挙の最大の争点は「中国との関係」。日本への影響は?

選挙の最大の争点は、何といっても、中国との関係がどうなるのか、である。その中でも注目されるのが、台湾の世界経済への影響力であり、特に世界最大級の半導体メーカーTSMC(台湾積体電路製造)などが率いる台湾の半導体産業の今後だ。世界的にスマートフォンやパソコンなど最先端の半導体などで世界をリードする台湾は、世界の半導体生産の6割を占める。最先端技術に限れば、その世界シェアは9割にもなる。
 
そんな台湾と中国が衝突し、台湾有事でも勃発すれば、半導体などの供給が滞り、世界経済に甚大な影響を与える。逆に、親中政権が誕生し、台湾の半導体産業など先端技術が中国に吸い込まれていくようなことになれば、先端技術争いや、ひいては、今後の米中を軸とした世界の覇権争いにも関係してくる。
 
さらに、台湾の存在は中国が軍事的影響力を拡大するために重要であり、アメリカや日本は台湾を中国に支配されたら、軍事的な脅威も高まるし、太平洋地域をわたるビジネス活動などにも影響を及ぼす。欧米諸国、日本、オーストラリアなどはそれは避けるべく動いている。
 
選挙直前の支持率は、頼氏がトップで40%で、候氏は28.9%となっている。政治に詳しい台湾の中国文化大学政治学科の鄭子真教授は筆者の取材に、「民進党が有利だと見ている」と述べている。今後の台中関係や米中関係、日中関係などにも多大なる影響を与えることになる総統選の行方に世界が注目しているのである。その結果は間もなく判明する。
 
この記事の筆者:山田 敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)。近著に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)がある。

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