ここでは石川県七尾市を舞台にした、『君は放課後インソムニア』を紹介します。同作は小学館の『ビッグコミック週刊スピリッツ』で2019年から2023年まで連載された漫画作品で、2023年にはテレビアニメ版も放送され好評を博していました。
そして、2023年に公開された実写映画版は、震災前の石川県七尾市を風景を映した映像としても、貴重だと思えるのです。作品の魅力と、ロケ地(モデルとなった場所)について紹介していきましょう。
「ほかの人とは違う」悩みに向き合う物語
『君は放課後インソムニア』は不眠症(INSOMNIA)に悩まされる高校生の男女の青春恋物語です。主人公の真面目な少年・中見丸太(なかみがんた)は、校舎の上にある天体観測室にて、快活な少女・曲伊咲(まがりいさき)と出会います。同じく眠れない悩みを抱えている2人は、安息の場所を守るため、天文部を復活させようとするのです。2人の淡い恋心が互いに芽生えていく過程や、クラスメイトや周りの大人たちも巻き込んでの青春模様を眺めるだけで、ほっこりと癒されることができるでしょう。
そして、物語で重要なのは、不眠症に限らず「ほかの人とは違う」という、若者らしく、普通ともいえる悩みに向き合っていることです。
例えば、主人公の中見は「みんなが普通にできていること(夜に眠ること)が、俺だけできないなんておかしい」と思い込みます。しかし、彼はその不眠症であるが故に、天体観測室を眠る場所に選んでいた、かけがえのない存在になっていく少女・曲と出会い、彼女と共に夜の七尾市の町を一緒に歩いたり、花火を見たりもできるのです。
さらに、天文部で写真を撮る活動を始めた中見は「夜しか撮れない星空写真を、夜眠れない俺たちが撮るんだ」と、自分の不眠症をも肯定するような言葉も口にするようになります。いわば、「ほかの人とは違う」ことは、「同じ悩みや共通点を持つ誰かとのかけがえのない出会いや、うれしい出来事」にもつながるという素晴らしさを示しているのです。
本人が欠点だと思っていることも、才能なのかもしれない
中見はその後に「みんなにもそれぞれ事情や悩みがある」ことを知りつつ、周囲の人のためにも天文部の活動を成功させようとするのですが、あいにくの天候のために「みんなの期待に応えられなかった」と必要以上に自分を責めてしまったりもします。石川県は年間を通して降水量が多く、その気候の特徴も物語に反映されているといってもいいでしょう。大人からみればなんてことはない、ささいなことで絶望的なまでに思い悩んでしまう中見は何とも不器用です。そんな彼に、劇中で「欠点とは、まだ使い道の見つかってない才能である」という言葉が投げかけられたりもします。
みんなのために悩むことや、過度に責任を感じてしまうことも、実は中見のいいところでしょう。その彼の性格や優しさが、周囲の人にとってプラスの影響を与えることもあるのです。この言葉通り、「本人が欠点だと思っていることも、いつか誰かのためになる才能として花開くのかもしれない」という提言は、若者にとって福音となり得るものだと思います。