表面的にはなんとも悪趣味に思えますが、作品を実際に見てみれば、残酷な内容であるからこその、相対的なメッセージが込められていると思うのです。近年公開されたデスゲームものの映画6作品を紹介するとともに、デスゲームものの意義を考えてみましょう。
1:『ハンガー・ゲーム 0』(2023年12月22日より劇場公開中)
ベストセラー小説を映画化した『ハンガー・ゲーム』(2012年)の64年前を描く前日譚です。劇中で行われるのは、12の地区から1人ずつ選ばれた少年少女が最後の1人になるまで殺し合うゲームの10回目。18歳の少年が「教育係」となり、「歌」を唯一の武器とする少女と組み、優勝を目指すことになります。 157分というボリュームの上映時間で描かれる全3章の構成となっており、第1章はゲームに挑む前の主人公2人の交流と、独裁国家ならではの風潮が主軸に描かれており、やはりシリーズを通じてドラマ部分に重きを置いた作品であることを再認識しました。殺し合いゲームが展開する第2章は正直に言ってやや大味で、特に「ドローン」のとある活用方法には笑ってしまいましたが、それまでの丁寧な積み上げにより主人公2人に思い入れができていたおかげで、十分にハラハラして見ることができました。 物語で何より重要なのは、主人公の少年が後の1作目の『ハンガー・ゲーム』では独裁者になってしまうこと。今回の第3章で描かれる内容は秘密にしておきますが、その「確定している未来」を踏まえると、より痛切に感じられるドラマが紡がれることは申し上げておきます。そのため、1作目だけでも事前に鑑賞しておいたほうがベターでしょう。なお、脚本には『リトル・ミス・サンシャイン』(2006年)や『トイ・ストーリー3』(2010年)のマイケル・アーントが参加してしており、ドラマ部分のクオリティに大きく関わったことは間違いありません。
2:『ガンズ・アキンボ』(2021年)(NetflixやHuluやU-NEXTで見放題配信中)
「両手に銃が固定された状態でデスゲームに参加」「最強の女殺し屋に襲われる!」というシンプルな内容で、その期待に120%応えてくれる内容です。普段見ているアクション映画の50倍くらいの勢いで人がたくさん死んでいくR15+指定納得の過激さや、主演のダニエル・ラドクリフが『ハリー・ポッター』シリーズとはまったく異なる「ヘタレでクズだけど、いざという時はなかなか頑張る」キャラクターになっていることも見どころです。劇中で両手に拳銃を強制的につけられるという状況は、「加害性の無自覚」についての痛烈な批評とも読み取れます。何しろ主人公はSNSでいわゆる「クソリプ」をしたことがきっかけでデスゲームに送り込まれており、「クソリプという言葉による暴力は、銃のように人を傷つける」という罪の重さを示しているとも取れるのです。とはいえ、その批評性は刺身のつまのようなもの。基本的にはいい意味で過剰にさえ思えるバイオレンスアクションを楽しむ内容でしょう。
3:『レディ・オア・ノット』(日本公開なし)(各配信サービスでレンタル中)
「命懸けの鬼ごっこに強制参加」と、これまたシンプルなデスゲームもので、当然のようにR15+指定納得の残酷描写も売りの内容です。大富豪一族に嫁いだはいいけれど、「伝統儀式」と称するのがデスゲームものというのは、女性に決定権のない結婚や、はたまた家父長制を起因とする悪しき伝統への批判とも取れるかもしれません。初めは異常事態に翻弄(ほんろう)されるだけだった主人公が、次第に「窮鼠猫を噛む」状態になっていくことが楽しいですし、バラエティ豊かな攻防性にハラハラするでしょう。「なんてひどい(褒め言葉)ことを思いつくんだ」と思うばかりのラストは一周回ってすがすがしいものがあります。ちなみに、主人公を演じたサマラ・ウィービングは前述した『ガンズ・アキンボ』では女殺し屋役で、そのあまりのキャラクターの違いにも驚かされます。