第2次世界大戦の影響下におかれた人たちと、その時代を今描く理由は何か。それぞれの作品の魅力や特徴を振り返ると、見えてくるものがあったのです。なおいずれの作品も、戦争が終結したのは今から78年前、1945年(昭和20年)のことだと認識して見てみることをおすすめします。
1:『窓ぎわのトットちゃん』(12月8日より劇場公開中)
黒柳徹子による大ベストセラー自伝的物語のアニメ映画化作品です。主人公のトットちゃんは、昭和15年に自由でユニークな校風の小学校に入学した女の子。そして、子どもの目線で楽しいエピソードがつづられながらも、年代が進むに連れて戦争が「侵食」していきます。トットちゃんのいる世界に、戦争の全体主義の価値観が忍び寄る様は、とても恐ろしいものでした。教室にいる子どもたちがそれぞれ違う動きをしたり、時には子どもの想像をファンタジックに表現したり、背景美術も当時の世相を細やかに再現しているなど、尋常でない労力で作られたアニメだからこそ、「あの頃の子どもたちが本当に生きている」ように見える感動があります。だからこそ劇中で起こる悲劇や、戦争による変化、時には狂気までも表出してしまうことがより悲しく思えるのですが、それでも「戦争にも奪わせないもの」を示してくれるため、もう号泣してしまうほどの感動があったのです。
物語は短いエピソードの連なりのようでいて、それぞれが「呼応」するように、緻密に物語が構成されています。『この世界の片隅に』に通ずる「戦争の時代に生きた普通の人々」の姿を、とことん子どもの視点で誠実に描ききった本作は、この冬に見逃してはならない、歴史的な大傑作だと断言します。
2:『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』(12月8日より劇場公開中)
TikTokで話題となった小説を原作とした、戦時中の日本にタイムスリップした現代の女子高生と特攻隊員の青年の恋の行方を描いたラブストーリーです。表面的には都合のいい設定ですが、まさにその都合のよさを自己批判的に捉えたセリフがありますし、特攻隊員の面々の異なる思惑も描かれ、何より自己犠牲や全体主義を強いる戦争への批判が存分に込められているなど、題材に誠実に向き合う姿勢がしっかり見られました。キーとなる百合の花が咲く丘のロケーション、俳優それぞれの演技も見事です。ただ、筆者個人としては、それでも展開に作為的かつ違和感がある箇所が多すぎたため、あまり楽しめなかったというのが正直なところです。主人公は同じような表面的な批判をするばかりで、未来の知識を生かすなどのタイムスリップものの面白みがあまりに少ないことも気になりました。しかし、10代の若い世代が戦争や特攻隊員について知り、当時の人の苦しみに思いを馳せ、相対的に今の自分自身を見つめ直すきっかけになるのであれば、十分に意義のある作品だと思います。