今回の不正行為で特に問題になっていること
今回の不正行為をもう少し掘り下げて見ていくと、派閥側の組織は、パーティー券を販売して1回まとめて20万円を超える支払いを受けた場合、支払った団体の名前や金額を記載する義務がある。ところが、前述の5派閥は、合わせて4000万円分ほどをきちんと報告書に記載していなかった。そして、それを情報公開請求などで調べた神戸学院大学の上脇博之教授が、会計責任者らに政治資金規正法違反の不掲載・虚偽記入の容疑があるとして告発状を提出した。それが大きな問題に発展しているのである。企業や団体などはパーティー券をまとめて多額で購入することが多いが、その場合でも、先に述べた通り、1回20万円以下であれば、報告書への記載の必要がない。つまり、売り上げを1回20万円以下にしておけば、購入者の記載を必要としない売り上げが集まる。加えてまた、売り上げが20万円を超えても、個人が購入したのであれば記載の必要はない。ただ今回、20万円以上であっても報告書に記載していないケースも発覚している。
そして記載されなかった分の売り上げなどは、議員らに還元(キックバック)されていたのである。さらに、議員にはパーティー券をさばく枚数のノルマがあり、ノルマ以上にチケットを売った場合はキックバックとして受け取っていた。キックバックされていた金額は、派閥によっては昨年までの5年間で総額5億円を超える場合もあったとされる。
キックバックを確定申告していなければ脱税
今回明らかになった派閥の政治資金報告で未記載だった約4000万円のうち、記載していなかった総額が最も多い派閥は安倍派で、約半分の1900万円ほどだった。それゆえに、現在のところ今回のスキャンダルで辞任に追い込まれた閣僚などは全て最大派閥である安倍派の議員ということになっている。連日、報道でも安倍派が槍玉に挙げられている。安倍派については、きちんと収支を記録していて、ご丁寧にどの議員にキックバックがいくら分配されていたのかもまとめられていた。議員の中には5年間で5000万円を超えるキックバックを手にしていた強者もいる。
そしてパーティーでキックバックを受けて、その金をきちんと確定申告していなければ脱税になる。そこもまた今回の問題で注目されている部分だ。
パーティー券を売りさばくのは自民党の派閥だけではない
こうしたパーティーは自民党の派閥だけでなく、野党でも行われている。筆者も、野党議員らがパーティー券を企業関係者にさばいているのを目撃したことがある。パーティー自体は違法ではないが、今回の自民党のように、そこで売り上げをキックバックして、それを報告していなかったのは社会通念的にも通用しない。役職の辞任のみならず議員辞職を求めてもいいくらいだと言える。こうした事態に、ただでさえ支持率低下にあえいでいた岸田政権は大打撃を受けている。現在の支持率は16%との調査もあり、もはや国民から支持されているとは言い難い。少なくとも、日本の政治そして国民のためにも、きちんと膿を出し切って不正が生まれない仕組みに変えていくべきだろう。さもないと、日本人の政治不信はますます強まり、国民を不幸にしていくだけだ。
この記事の筆者:山田 敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)。近著に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)がある。
X(旧Twitter): @yamadajour、公式YouTube「スパイチャンネル」
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)。近著に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)がある。
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