少し前に金曜ロードショーで放送された『ズートピア』(2016年)も、人種差別・偏見の問題を扱った映画でした。ここでは、2023年に公開された中から、5作品を選出してみます。
1:『ティル』(12月15日より劇場公開中)
1950年代アメリカで「アフリカ系アメリカ人の少年が白人女性に口笛を吹いたことで殺された」という実在の事件「エメット・ティル殺害事件」を映画化した作品です。映画本編を見ても、本当に「こんなことだけで子どもが殺されてしまうのか」とショックを受けましたし、それが「当たり前」だったことが分かる当時の風潮に戦慄しました。 焦点が当たっているのは、息子の変わり果てた姿と対面し、この凄惨な事件を世間に知らしめるために行動する母親の姿。会話の間を長めに取り、登場人物が「何を考えて」「どんな感情を溜めているのか」を想像させる演出は、スクリーンで集中して見てこそのものでしょう。 母親を演じたダニエル・デッドワイラーの熱演のひとつひとつが胸に迫りますし、見る側にもとてつもない怒りを覚えさせることが何より重要でした。アフリカ系アメリカ人による公民権運動を大きく前進させるきっかけとなった事件であることも踏まえ、全ての人が「知っておくべき物語」だと断言します。2023年のベスト映画を決める前に、ぜひ見てほしいです。2:『隣人X -疑惑の彼女-』(12月1日より劇場公開中)
第14回小説現代長編新人賞を受賞した小説の映画化作品で、ほかの惑星から来た難民がいる世界において、週刊誌記者が宝くじ売り場で働く女性に近づき「難民であることを追及するか」「恋人として心から思うか」のどちらかで揺れていくSFラブストーリーです。言うまでもなく物語はフィクションですが、描かれているのは難民問題、マイノリティへの差別、フェイクニュースといった現実の日本社会にあるもの。台湾からの留学生の女性の物語も並行して描かれるため、よりこの問題が絵空事ではない、「すぐ側にある」ものだという実感が生まれるでしょう。
林遣都の熱意と危うさと哀れさを同居させる演技が素晴らしく、ミステリアスであると同時にごく普通の女性にも思える上野樹里との掛け合いを見ていると、2人がただ幸せであるようにと願いたくなります。もちろん、物語は平穏無事なままでは終わらないのですが、だからこそ「こうならないために」考えられることがあるはずです。