原作は2003年から2009年にかけて連載された浦沢直樹による同名漫画。さらに、その漫画は1964年から1965年に展開した手塚治虫の漫画『鉄腕アトム』(光文社)の1エピソード「地上最大のロボット」を原作としています。
アニメのクオリティと豪華声優陣の演技が絶品
今回の『PLUTO』は、まずアニメとしてのクオリティが絶品です。原作のハードでシリアスな雰囲気の再現、特に浦沢直樹の絵がそのまま動いている衝撃は大きく、デジタルの技術が注ぎ込まれながらも、どこか手描きのようなあたたかみを感じさせ、さらに「ここぞ」という時の躍動感のある激しいアクションにも圧倒されました。さらなる魅力は超豪華な声優陣。藤真秀、日笠陽子、鈴木みのり、安元洋貴、山寺宏一、木内秀信、小山力也、宮野真守、関俊彦、古川登志夫、津田英三、朴ろ美、羽佐間道夫、山路和弘、田中秀幸、堀内賢雄と、若手人気声優からベテランまで勢ぞろい。それぞれの役へのハマりぶりも文句のつけようがありません。
そして、原作からは15年、さらにその原作からはなんと58年を経てのアニメ化になるわけですが、作品が持つメッセージ性はまったく古びていないどころか、むしろ今だからこそ「必要」なものだと思えました。まずは原作の原作である「地上最大のロボット」から、ネタバレにならない範囲で魅力と特徴を解説していきましょう。
複雑な感情を呼び起こす「地上最大のロボット」
「地上最大のロボット」のあらすじはシンプル。「世界で最も強いロボットになることを命じられたプルートゥが、世界に7人いる強いロボットを1人、また1人と襲っていく」というもの。個性豊かな強いロボットが、それぞれプルートゥを「迎え撃つ」戦いの数々に当時の子どもたちは熱狂し、『鉄腕アトム』の中でも屈指の人気エピソードとなったのです。ただし、「強いロボット同士が戦う! カッコいい!」と単純に思えるだけの内容ではありません。プルートゥに壊される……いや殺されるロボットたちの中には子どもや周りに愛される善良な者もいて、人間に命じられるままに彼らを葬り去るプルートゥは、客観的には「悪」そのものなのですから。
そして、その悪のはずのプルートゥにも「思い入れができてしまう」というのも大きな特徴です。彼は表面上は粗暴なようでいて戦いそのものは「正々堂々」と挑んでいますし、言動はどこか「紳士的」にすら思えるほど。さらに、人間の命令そのままにロボットを殺してきてしまった彼が、「本当は友達を求めていた」ような悲しさまでもが浮かび上がってきます。「地上最大のロボット」は暴力や争いそのものの虚しさを示す、確かなメッセージ性があるのです。
また、そのプルートゥが次々にロボットを殺していき、世界最強のロボットを目指していく様は、はっきりと「間違っている」のですが……誤解を恐れずに言えば、その過程にほの暗い快感を読者に抱かせるところもあったと思います。それをもって、暴力や争いがどれだけ虚しく間違ったことであっても、それを「求めてしまう」人間の衝動にも気付かされる、読者にも一定の罪悪感を抱かせる構図もあるのです。