最終報告(案)を見て専門家や一般の人から多数の不安の声が寄せられる
しかし、サイドローディングが認められた場合、多くの人にとってはセキュリティ面での不安が最も強いだろう。iPhoneは常に持ち歩く、非常にプライベートな端末だ。iPhoneに保存しているデータも個人情報の宝庫といえる。将来的にはマイナンバーカード機能が搭載される可能性もある。
前述の通り、iPhoneは10代から人気が高い。MM総研が2023年10月に発表した調査結果によると、「GIGAスクール構想」における端末としてiPadを提供している自治体も約3割いる。ITリテラシーが高くない人や、スマホを持ち始めたシニアについても同様で、怪しいアプリを入れてしまったがために、情報をすべて抜き取られてしまうかもしれない。
最終報告(案)には、パブリックコメントが全559件も寄せられた。その一部を抜粋してお伝えする。
インターネットユーザー協会(MIAU)「スマートフォンは一番身近な情報端末として、幅広いユーザーが利用していることに強く注意すべきだ。子どもたちだけでなく、情報リテラシーが必ずしも高くない人たちの生活に密着するツールであり、濫用や悪用を防ぐ機能や仕組みが取り入れられてきたことに注目する必要がある」(P.1066~1067)
iOSコンソーシアム「GIGAスクール構想は『成功事例』となっていますが、今回のアプリ代替流通経路を契機としたトラブルが頻発すれば、その功績は『暗転』しかねませんし、それによって教育領域でのICT活用が大きく後退した場合、その影響を受けるのは他でもない子供達です」(P.169)
ネット教育アナリスト/安心ネットづくり促進協議会「…代替流通経路を一旦解禁することは、不可逆的な大きな変更である。アプリは青少年にとっても身近なサービスであることから、保護者が安心してサービスを選択し子どもに利用させることができる措置について検討が不足していると言わざるを得ない」(P.610)
個人ユーザー「Appleの製品はクローズドな環境だからこそ、私は高齢の両親にiPhoneを使わせています。もしこれがクローズドでなくなったらどうなるのでしょう。何も考えることなく安全な環境が構築されている場所にわざわざ風穴を開けることのメリットは一体なんなのでしょうか。…政府の方から安心を壊す行動を起こされると、この先何を信用していけばいいのか分かりません」(P.763)
Appleは公式に反対声明を発表
Appleはデジタル市場競争本部の最終報告(案)を受けて、公式声明を発表した。
「Appleは、私たちが事業を展開するすべての市場において、イノベーション、雇用創出、競争のエンジンとなっていることを誇りに思います。日本だけでも、iOSアプリの経済は約100万人の雇用を支え、大小のデベロッパーが世界中の顧客にアプローチすることを可能にしています。私たちは、本報告書に記載された多くの提言に謹んで反対します。これらの提言は、Appleのエコシステムがアプリ開発者の方々に利益をもたらし、消費者にプライバシーとセキュリティを保護する選択肢を提供しているアップルの仕組みを危機的な状況に追い込むものです。私たちは、これらの懸念に対処するため、これからも建設的にかかわり続けていきます」
Appleによると、アプリストアは安全で信頼できる場であり、マルウェアの攻撃はこれまで一度も仕掛けられたことはないという。Appleのデバイスはハードウェアとソフトウェアをシームレスに連携でき、Appleのセキュリティサブシステム「Secure Enclave」によりセキュリティ層を安全に確保している。
さらに、ソーシャルエンジニアリングとして、App Storeに寄せられるレビューからも安全を確保している。つまり、デバイスによるセキュリティ対策と、一元管理されたApp Storeでのレビューによって、基本的なプライバシー、およびセキュリティの保護が保たれてきたのだ。
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