争いの行方は
現在、争いの行方は、イスラエル側からの報復攻撃の段階に移っている。もともとハマスは、イスラエルを転覆させるほとの武力は持ち合わせておらず、今回もあくまでテロ攻撃の範疇(はんちゅう)を超えない。一方で、戦闘力で勝るイスラエルは大規模な攻撃を行うことになる。
ハマスが実効支配するガザ地区には、約200万人が暮らしている。そのうちの半数は子どもだといわれており、イスラエルの攻撃でも多くの子どもたちが犠牲になる可能性がある。一方で、ガザの人口のうちハマスのメンバーは3万人ほどにすぎない。加えて、幹部の多くはカタールなど国外に移動しているとされる。
今後、この争いはどこに向かうのか。イスラエルではこれまで1300人以上のイスラエル人が死亡しており、まだ100人近い人々が誘拐されてガザに連れ込まれている。ハマス側は、2000人以上が死亡しており、そのうちの半数は女性と子どもだと報じられている。
イスラエル軍は今後、人質の確保なども視野に入れて地上部隊も投入すると見られており、死者数はさらに増えることになるだろう。
日本への影響は?
そしてこの争いは、日本にも影響を及ぼす可能性がある。日本が石油輸入の9割を依存している中東での混乱だけに、石油価格の推移がどうなるのかが気になるところだが、現時点では多少の価格上昇にとどまる可能性が高い。
問題は、イランがイスラエルに対する争いに加わるようなケースだ。そうなれば、中東を広範囲に巻き込む紛争になる可能性がある。中東からの石油輸出に多大なる影響を与えることになり、石油価格は高騰するだろう。
原油価格の高騰は、日本でも食料品の価格やガソリン料金が上昇につながり、国民の生活に打撃を与える。ただでさえインフレといわれる状況の中で、ますます物価が上がる可能性がある。電気やガソリン代のみならず、パンや麺、トイレットペーパーなど私たちの生活に欠かせないものも値段が上がるかもしれない。
イスラエルとハマスの争いがさらに次の段階に悪化するとすれば、それはイランの関与が鍵となるので、イランの動向には注意しておいた方がいいだろう。
インターネットやSNSの普及などで現地のニュースも瞬時に手に入るようになった昨今。国境という概念はますます薄くなりつつあると感じるが、少し遠く感じる中東の出来事にも感度を高めておくことは世の中の動きを知る上で、大事かもしれない。
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)。近著に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)がある。
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