ここでは、それらの問題を描いた、また性被害の体験を告白・共有する「#MeToo」運動につながってもいる映画を8作品紹介しましょう。(以下、日本で劇場公開または初放送された年を記しています)
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1:『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』(2023年)
ハリウッド映画のプロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインによる数十年に及ぶ性的暴行を告発した2人の女性記者を追う、まさに#MeToo運動が起こるまでの経緯が分かるドラマです。序盤では、女性が夢のような映画の世界に魅了されるシーンの直後に、洋服を抱えて号泣しながら走り去る姿が映されます。それをもって、性加害がどれほどに憧れや希望を打ち砕く、おぞましく、許されざることなのかと痛切に突きつけられます。
劇中では被害者を泣き寝入りさせようとする、法律までもが加害者を守るように利用されている、おぞましい隠ぺい構造が明らかに。記者の取材と交渉は「地道」そのもので、何度も何度もトライし続けて、ようやく「少しずつ動き始める」ほどです。巨大な権力の恐ろしさ、そして過去の性被害を話すということがどれほど苦しく勇気のいることなのかも、その過程から思い知らされるでしょう。
2:『スポットライト 世紀のスクープ』(2016年)
アメリカの新聞『ボストン・グローブ』が、神父による児童への性的虐待と、カトリック教会がその事実を看過していた問題を白日のもとにさらす記事を掲載するまでの実話を描いたドラマです。性加害そのものは映像として映されることはないものの、その事実が被害者の手紙や口頭で伝えられるからこそ、それぞれの心の傷の深さをより想像できるようにもなっています。
劇中での「教会は何世紀も存在する。新聞が勝てるか?」「教会はなんでもできる」といったセリフからも分かる組織の巨大な権力、そして「早く告発できていれば、何人かの子どもたちを助けられていたかもしれない」という無念は、まさにジャニーズ事務所の問題に通じています。深い闇に光を当てるような“正義”を示すラストまで、ぜひ見届けてほしいです。
3:『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』(2020年)
こちらも実際にあった神父による児童への性的虐待の事件を追った、フランスの映画です。つらいのは、被害を受けた男性たちが「20〜30年たってやっと言えた」こと。しかも、思春期の頃に勇気を振り絞って親に打ち明けても教会側から“うやむや”にされて告発まで辿りつけなかったり、告発のチャンスがあっても「何も言いたくない」「思い出したくない」と申し出自体を断る心理も生まれてしまったりもするのです。
被害を受けた3人の男性は、妻と5人の子どもたちにも恵まれ真っ当な人生を送っていたり、言動は粗野でも憎めない性格の持ち主だったり、自己肯定感が著しく欠如していていたりと、それぞれ状況が異なる人間臭いキャラクターで、初めはバラバラだった彼らが告発に向けて団結するまでのドラマが大きな見所。この映画が大評判を呼び、劇中の活動の認知と理解が急速に進んだ意義も、とても大きいものだったでしょう。
4:『プロミシング・ヤング・ウーマン』(2021年)
「前途有望な若い女性」というタイトルは、裁判官が性暴力を働いた加害者男性を「前途有望な青年(Promising Young Man)」と捉えて量刑を軽くしたという、実際の出来事から取られたもの。性加害者への擁護や問題を矮小(わいしょう)化したりする慣習への痛烈な皮肉、いや怒りが込められていることは、本編を見ればこれ以上なく分かるでしょう。
あからさまに女性を蔑視する者だけでなく、「自分は女性をリスペクトしている」と「思い込んでいる」者の問題も容赦なく暴くので、男性にとっては良い意味で非常に居心地の悪い時間を過ごすことができるでしょう。そして主人公が復讐(ふくしゅう)までに至る過程はスリリングで、エンターテインメントとして抜群に面白い上に、クライマックスには膝から崩れ落ちそうになるほどの衝撃がありました。
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