ヒナタカの雑食系映画論 第41回

ジャニーズ事務所の問題を知った今だからこそ見てほしい「#MeToo」と性加害を扱う映画8選

ジャニーズ事務所の問題がとてつもなく根深いものだと知らしめられた今に見てほしい、性被害の体験を告白・共有する「#MeToo」運動につながっている、また性加害の問題を描いた映画8作品を紹介します。※サムネイル画像出典:(C) Universal Studios. All Rights Reserved.

5:『ラストナイト・イン・ソーホー』(2021年) 


「憧れの仕事に就くために都会に進出したばかりの女の子が、雰囲気になじめずに一度は塞ぎ込むものの、自分に合った部屋を見つけて、気の良い男の子に出会って再スタートしようとする」という序盤の流れは、まるでアニメ映画『魔女の宅急便』のようでもありますが、本作のジャンルはホラー。主人公は1960年代のロンドンに住んでいた女性の夢を見て、現実とシンクロしていく不可解で恐ろしい出来事に遭遇します。

序盤のタクシー運転手のジョークでは済まされないセクハラ、都会の男性から性的な興味の対象として見られることへの不安、そしてショウビズの世界にある性的搾取の問題は、まさに#MeToo運動に通ずるものでした。派手な見せ場やスピーディーな演出もあってエンターテインメント性の高い作品でありながら、R15+指定ならではの刺激の強い殺傷と性暴力の描写があるのでご注意を。

6:『ジェニーの記憶』(2018年) 


ドキュメンタリー監督のジェニファー・フォックスが、自身の体験をもとに性的虐待の問題に迫ったドラマです。48歳の女性が自分が13歳の時の日記を読み返すと、男性コーチと過ごした「美しい記憶」のはずのひと夏は、客観的に見れば自身を欲望のままに性的に搾取するおぞましい行為だったと気づかされるのです。

本作で描かれる加害者は13歳の少女にとって「信頼できる大人」であり、行為に及ぶときも「少女に主体的に決めさせる」ように誘導しています。だからこそ、主人公は当時を振り返っても「自分が性犯罪の被害者だ」とはっきりと断定することができないことも、また彼女を苦しめていくのです。そのジレンマも含めた性的虐待がもたらす苦痛がどれほどのものなのか、知る意義は大きいはずです。

7:『トガニ 幼き瞳の告発』(2012年)


韓国のろうあ者福祉施設で実際に起こった性的虐待事件を題材にした映画です。耳の聞こえない子どもへの性的虐待の事実のみならず、社会的地位と金がある者は守られ、弱者が食い物にされる構造が明らかになっていくため、全編にわたってはらわたが煮えくりかえるような怒りを覚える、だからこそこの問題を当事者の気持ちで考えることができる内容に仕上がっていました。

ちょっとした言動が伏線として回収されたり、スリリングな法廷劇まで展開するなど、映画としての面白さも群を抜いています。この映画によって事件が再検証され、障がい者女性や13歳未満の児童への性的虐待を厳罰化と公訴時効を廃止する法律、通称「トガニ法」が制定された意義もとても大きなものです。性的虐待のシーンがやや間接的でも生々しく描かれており、R18+という高いレーティングがされているのでご注意を。

8:『オオカミの家』(2023年)


2023年10月現在もミニシアター系で劇場公開中のこちらは、森の中の家に逃げた少女が2匹の子ブタと共に引きこもる様を描いた、チリ製のストップモーションアニメ映画。「壁画を蠢(うごめ)かせる」「全編ワンカット映像風」の作りで、終わりのない悪夢を見ているような感覚にもなるでしょう。同時上映の短編『骨』も合わせて、グロテスクで恐ろしいことが起きていると“想像させる”シーンがたっぷりあるので、精神的に安定しているときに見たほうがいいでしょう。

着想元となったのは、拷問、殺人、そして児童への性的虐待が行われていた実在のコミューン「コロニア・ディグニダ」。「この映像を通じて私たちの正しさを知ってください」などとナレーションでのたまう「ニセのプロパガンダ映画」という体裁がさらにおぞましさを増す構造もあります。実験的な作風かつエンターテインメント性は少なめで、かなり見る人を選ぶ作品なのは間違いないですが、今までにない映像を目の当たりにしたい人におすすめします。

有害な男性性、隠ぺい体質全般の問題を描く映画も

このほか、『オズの魔法使』の主演俳優であるジュディ・ガーランドが47歳の若さで急逝する半年前の出来事を描いた『ジュディ 虹の彼方に』(2020年)も、少女時代の許しがたい搾取構造と性被害の事実が示されていました。
 

また、2022年には「有害な男性性」を描いた映画も多数公開されました。

性加害事件でなくても、実際の凄惨(せいさん)な殺人事件から同調圧力の恐ろしさや隠ぺい体質の問題を描く、現在劇場公開中の『福田村事件』や『月』もジャニーズ事務所の問題に通じています。

また、2023年10月20日から劇場公開の『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』で描かれるのは、先住民の石油に目をつけた白人たちがその地にやってきて、殺人事件が起こるまでの実話。こちらも「長いものに巻かれる」「なあなあでひどいことを提案する権力者に従ってしまう」様が『福田村事件』やジャニーズ事務所の問題に少なからず通じていました。
 

そして、いずれの映画も実話がベース、または実際の事件を参照している映画です。これらの問題が「現実にあった」ことを重く受け取ることができますし、だからこそ今後は「こうならない」ためにどうすればいいかと、個々人が考えることができるでしょう。


この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の魅力だけでなく、映画興行全体の傾向や宣伝手法の分析など、多角的な視点から映画について考察する。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。


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