井ノ原氏の「子どもに見せたくない」発言に違和感。ジャニーズ会見で発表された「2つの名称」に疑問

ジャニーズ事務所の記者会見が10月2日に行われました。前回の会見の時にはまったくできなかったことが、やっとできるようになった、ある程度は納得できる内容であった反面、「2つ」の名称と「盾にした」言葉に強い違和感を覚えました。

ジャニーズ事務所
ジャニーズ事務所会見、「2つ」の名称と「盾にした」言葉の違和感
ジャニーズ事務所の記者会見が10月2日に行われ、明確に「現事務所は社名を変更し、被害者への補償と精神的ケアの後に廃業」「新しく会社を設立し、希望するタレントやグループと個別にエージェント契約を結ぶ」「ジャニーズという名前がつくものは全てなくなる」と具体的な方向性が示されました。

前回の会見の時にはまったくできなかった最低ラインの対応が、遅きに失した、後手後手の状況で、やっとできるようになった、という段階ではあるでしょう。それでも、これらの方向性を明示できたことは評価したいと思います。

ただし、2つの「名称」にまつわる事柄と、とある「盾にする」ような言葉に、強い違和感を抱いたことも事実です。それぞれについて記してみます。

補償と精神的ケアをする会社名が「SMILE-UP.」という違和感

会見で、ジャニーズ事務所は「SMILE-UP.」へと名称を変更し、被害者への補償と精神的ケアに専念することを明言。同社はタレントのマネジメントや育成からは完全撤退し、補償が終わりしだい廃業することも告げられました。

方向性そのものは妥当であると思います。しかし、問題となるのはその社名です。東山紀之氏は「スマイルという言葉に違和感を感じていらっしゃる方もいらっしゃると思いますが、まずは被害に遭われた方々への支援や補償を少しでも早く進めていくことがSMILE-UP.社の社会的責任と考えております」と語っていましたが、その違和感は許容できるレベルを超えていました。

何しろSMILE-UPの意味は「ほほ笑む」。金銭的な補償が行われたからといって、人生が破壊されるほどの性被害を受けた事実は絶対になくなりませんし、どうあっても笑って終われるような問題ではないのです。性被害と向き合うための組織の名称としては、あまりに不適切に思えました。

さらに、東山氏はSMILE-UP.について「3年前に社会貢献プロジェクトを推進していくために取得した商標」とも語っており、公式サイトには2018年7月に幅広い社会貢献・支援活動を行っていく「Johnny’s Smile Up ! Project」の立ち上げが書かれています。

デーブ・スペクター氏がX(旧Twitter)で「やはり(ジャニー喜多川氏に)リンクされるため払拭(ふっしょく)にならないね」と批判した通り、ジャニー喜多川氏の影響がないとは断言できない名称でもあるのです。その時のプロジェクトが心からの社会貢献のためなのだとしても、「ジャニーズの名前をいっさい残さない」意向であれば、それを想起させるもの、その名前が並んでいた過去の名称も排除すべきではないでしょうか。

新会社の名称をファンクラブで公募する違和感

さらに、タレント個人またはグループとエージェント契約をするために設立する新会社の名称は、「強化する」と告げられたファンクラブから公募すると伝えられました。年間500億円の売り上げがあるともいわれるファンクラブの今後の運営については会見では詳細が分からないままです。木目田裕弁護士から新会社は「完全に新しい事務所であり、承継することはない」と明言されたはずなのですが、これではファンクラブそのものが新会社にそっくりそのままスライドして継続していく印象も持ちました。

仮に「ファンクラブも新会社の名称が決定しだい解体」だとしても、ファンからの公募という手段そのものに強い違和感を覚えました。井ノ原快彦氏は「ファンの皆さまのお力をお借りしたい。これだけ厳しい状況にあっても、皆さんがグッと耐えてきた、その気持ちは届いております。改めてファンの皆さんの力を実感しております。だからこそ、これまで我々が未来を切り開いていくには2人3脚でいくべき」などと、公募の理由を語ってきましたが、前回の会見の時にもあった「ファン心理を利用している」かのような、欺瞞(ぎまん)めいたものを感じてしまったのです。

井ノ原氏の言葉が心からのものだとしても、公募で決まった新社名を考えたファンには責任が生じてしまいます。もしも、採用された社名がバッシングされたらそのファンの方が深く傷つくでしょう。自分たちが責任を持って名前を考えるべき、もしくは企業名やロゴのデザインなどに関わるプロの力を借りるべきであり、その責任を一般人であるファンに投げる、2人3脚という言葉をまで使って「共に走ってもらう」ことを促すのは、個人的には「一緒に転んだら傷を負ってもらうこと」までもを連想してしまった、不誠実極まりない対応だと思うのです。

そもそもの公募という「イベント感覚」を抱かせる手法を用いるのも、これほどの重大な性犯罪事件であること、被害に遭われた方の心情を思えば、不誠実を超えて異常な判断です。さらに、会見では「内向き」という言葉を繰り返し用いて、これまでの対応の反省の弁がありましたが、「ファンクラブだけに限定した形で新しい社名の選定の手段をとる」こともまた「内向き」そのものではないでしょうか。

事務所側に必要なのは「ファンにいっさいの責任を負わせない」こと、転じて「ファンを突っぱねてでも自分たちの責任であることを強調する」ことでしょう。ファン心理を利用する、ファンを盾にしていると捉えられる言動や施策は、むしろファンのためを思えばこそ、やめるべきです。


>次のページ:井ノ原氏の言葉および記者側への極端な考えの危険性

 
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