井ノ原氏の「子どもに見せたくない」発言に違和感。ジャニーズ会見で発表された「2つの名称」に疑問

ジャニーズ事務所の記者会見が10月2日に行われました。前回の会見の時にはまったくできなかったことが、やっとできるようになった、ある程度は納得できる内容であった反面、「2つ」の名称と「盾にした」言葉に強い違和感を覚えました。

井ノ原氏の言葉および記者側への極端な考えの危険性

井ノ原氏は会見で、質問を求められていない者からのマイクを通さずの質問があり、会見が「荒れた」事態に対して、「この会見は全国に生放送で伝わっています。小さな子どもたちも見ています。自分にも子どもがいます。ジャニーズJr.の子たちもいますし、それこそ被害者の皆さんの『自分たちのことでこんなにもめてるのか』というのは見せたくない。ルールを守る大人たちの姿をこの会見では見せていきたい。どうか落ち着いてお願いします」と答え、会見では拍手が起こりました。

この井ノ原氏の言葉にはSNSで多くの称賛が集まり、反対にマイクを通さずに質問を投げかけた望月衣塑子記者がバッシングを浴びる事態になりましたが、それらの反応がかなり極端であり、どちらかの意見に傾きすぎること自体が危険であると思いました。

まず、史上まれに見る重大な性加害事件についての会見が「もめる」のも、記者から問題を追求される、批判が浴びせられるのも当然であると思います。会見の時間も短くなり「1社1問」のルールを一方的に敷いたのも事務所側です。特定の記者が当てられないからこそ、そのルールを超えても言わなければならないことがある、という言い分にも一理あります。

何より「子どもに見せたくない」「自分たちのことでこんなにもめてるのか」ということが、子どもや被害者に配慮しているようでいて、それぞれを盾にしているように聞こえました。

これらの井ノ原氏の言葉は巧みであり、荒れた会見の場にいる自分たちにシンパシーを抱かせ、反対に記者側を「ルールを守らない非常識な者」として刷り込ませるように「利用」された印象を持ちます。未成年の子どもへの重大な性犯罪を続けてきた企業の会見で「子どもが見てますよ」と言うこと、そこにも本来であれば激しい違和感を抱くはずなのに、実際は拍手が起きた、称賛の声が届いたことも恐ろしく感じました。

確かに望月記者の行動は、井ノ原氏の言葉がなくても、多くの人にとって非常識なものに思えたでしょう。「1社1問」のルールも、多くの記者に的確かつ端的な質問をしてもらうための配慮ともいえます。

しかし、井ノ原氏の言葉を正論と受け取りすぎるのも、反対に望月記者の行動をジャーナリズムとして全て正当化する、はたまた過剰にバッシングしすぎるのも、問題になり得ると思います。批判は社会や事態がより良くあるために必要なものですが、その言葉が一線を超えてしまうと誹謗(ひぼう)中傷や人権侵害にもなりかねません。この会見の場でどちらが正しくてどちらが悪いと過度に単純化しすぎることなく、そこにはグラデーションがあると、それぞれを客観的に見る、その上で本質的な問題を追求することも大切なはずです。

被害者のことを第一に、その人数も重く受け止めるべき

このほかにも、会見には問題と思える箇所がありました。例えば、代読された藤島ジュリー景子氏の手紙には「ジャニーズ事務所を廃業することが、私が加害者の親族としてやり切らねばならないこと」とありますが、そこは「親族」ではなく「共同経営者」としての立場を強調しなければならないでしょう。ワイドショーなどでマスコミによる加害者の親族への過剰な追及が問題となる昨今で、「加害者の親族は責任を取らなければならない」とも捉えられるメッセージもまた危険なものに聞こえました。

そして、そうした名称にまつわる事柄や会見での言葉の違和感が問題であることはもちろん、そもそもの重大な性犯罪を受けた被害者のことを、第一に考えるべきです。今回の会見で発表された「478人が被害者救済委員会に申し出て、そのうち325人が補償を求めている」という、その人数そのものも重く受け止めなければなりません。理由があり申し出ていない、補償を求めずにいる人も、もっといることでしょう。

これから私たちに必要なのは、何よりも具体的な被害者に対する補償への注視です。それがなされるまで信用してはならないという、毅然とした社会の態度も今後も重要になるでしょう。

この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の魅力だけでなく、映画興行全体の傾向や宣伝手法の分析など、多角的な視点から映画について考察する。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。


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